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「「「トリックオアトリート!」」」
弾けるような幼い笑顔にたちまち囲まれる。
両手を出して、声を揃えて唱えられるのはこの夜の魔法の呪文。お菓子を強請るおまじない。
……目の前に次々に差し出される小さな手と、無邪気な子供たち。
オレは正直言うとガキは苦手でさ。しかも菓子なんて持っていない。
思わずたじろぐと、片手をキュッと握る感覚に隣を見下ろせばウィンクをする少年悪魔が小さく頷いた。
「ほら。可愛いお化けさんやモンスターさん達、お菓子をどうぞ……ってこのお兄さんが!」
子供らしい、些かトーンの高い声。ローガンはどこから出したのか、大きなバスケットを頭の上に掲げる。
中には溢れんばかりのお菓子。色鮮やかな包み紙のキャンディやチョコレート、アイシングクッキーやゼリー菓子の数々。
さながら大粒の宝石の詰まった宝箱だ。
「「「うわぁっ! ありがとう!」」」
子供たちの大きな歓声と、伸ばされた手をがバスケットの中身を思い思いに掴み取る。
手から零れた菓子がキラキラと灯りを反射して、夜の町に煌めく。
「ね。あたしも、ちょうだい」
落ちた菓子を嬉嬉として拾う子供たちを眺めていると、ふと背中にそんな言葉が掛けられた。
振り返ればそこには一人の女。
「あっ!」
見た目16、7歳。ブロンドの髪は長く、艶やかに夜の空に揺蕩いている。大きな瞳は鳶色で先のエメラルドグリーンの瞳の吸血鬼の少女より、幾分も幼く見える。
……しかしオレはこの女を知っていた。見覚えがあるとかそういう次元じゃあない。
諸悪の根源とまでは言わないが、発端ではある。
「キャロル」
その名を口の中に転がしたが、飲み下すことは出来ず。小さな呟きとして零れ落ちる。
ふっくらとした唇、その口元のほくろ。どこか光の通らない不透明な瞳は無邪気な子供のように細められている。
「お兄さん、誰? あたし、知らない」
怪訝そうに首を傾げ、目をしばしばとさせる幼女めいた反応は確かに見覚えのない態度だが。
しかしその容姿と声、オレの苦い記憶の一部として焼き付いている。
―――1ヶ月以上前に、人間界にやってきたオレの命を狙った女。
しかも彼女はあの男、レミーの腹違いの妹だった。
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