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「嗚呼、この方が」
ローガンが呟き頷く。
……彼女は半獣人だ。レミーの父親である人狼と人間の女の間の子供。
本人はその事を知らず、ただオレのことは『吸血鬼だから』という理由だけで殺そうとしてきた。
人間の歪んだ正義感というか、ヒーロー願望のようなものだろうか。
悪いけど1ミリも理解出来ないし、間違った偏見に内心腹を抱えて笑ったとだけ言っておく。
ま、何にしてもえらく迷惑だったぜ。
お陰でオレはレミーに『人間界に行かせたくない』と監禁されてこの状態だ。
確かに彼には助けて貰った形ではあるが、ここまでされるとは……つまりこの女が原因なのは間違いないってことだ。
「キャロル。なんのつもりか知らないが、今オレは君と遊んでいる時間はない」
そう。魔女を探しているんだ。この呪いをかけた、という悪魔の間ではそこそこ名の知れてるらしい魔女を。
オレと、恐らくレミーにも掛けられた呪いという名の魔法はきっとその魔女にしか解けないのだろう。
そしてそいつはこの人間界に。
ハロウィンに沸き立つ小さな村にいる、らしい。
「?」
ブロンドの髪の毛先を指先で弄びながら、キャロルは小首を傾げてオレたちを見た。
すっかり菓子を拾い終わった子供達は、またスキップするように次の大人達から菓子を強請りに行く。
その楽しげな声を聞きつつ、キャロルを睨みつける。
……人狼のハーフというのに、その衣装はとても扇情的。セクシーと言えばいいのか。
ほぼ太腿が露になったスカート丈のドレスからはみ出さんばかりに盛り上がった胸の双丘。
レースとフリルで飾り立てられているのが、尚更淫靡に見える。
しかも彼女の佇まいはひどく無邪気で、格好にそぐわない粗野なものでもあった。
雑に広げられた足に、今にも下着が見えそうでオレは柄にもなく気まずく視線を逸らす。
「オレの命を狙うのも構わないが、今は相手していられないんだ……魔女を探していてね」
「?」
キョトンとした顔。本当に幼児のようだ。
とぼけてんのかと思ったが。その表情は本当に何も知らず皆目見当がつきません、っていうか貴方は誰ですか? って顔をしている。
無垢で一切の邪気を取り払った顔がその容姿と格好にそぐわない。チグハグだ。
「キャロルは今、すこーし退行しているのよ……記憶も曖昧だから貴方の事覚えてない、かも」
オレたちの後ろからそんな言葉が飛んできて、振り向く。
そこには、懐かしい姿が。シスターが着るような黒衣に身を包んだ愛らしい娘。
「アメリア!」
……会いたかった。外の世界への希望の象徴。オレの癒し。
縋るような目付きだったのだろう、アメリアはあの優しげな微笑みで頷く。
「久しぶりね。フィン……会いたかったわ」
「アメリア、オレもだよ。突然いなくなってすまなかった」
監禁されて初めて逃げ出した先は人間界で、アメリアの住む教会。
建物前で気を失って倒れ込んだオレを、彼女は運び入れて介抱してくれた。何も聞かず、今のように穏やかに全てを包み込む笑顔で頷いて見せたのだ。
しかし安心して眠りこんだ間に、あのバカ狼に拉致されて……そのあとは思い出すだけで腹の底が煮えくり返る。
「フィン、もう身体は大丈夫なの?」
あんな形での別れで久しぶりに会ったのに、『なぜ?』でなく心配の言葉をかけてくれるこの女神のような娘……彼女に抱く感情を考えると、やっぱりオレは男なんだろうな。と感じる。
しかし次の瞬間、彼女はオレの身体を舐めるように眺めて一言。
「その首筋の歯型にキスマーク、なかなか素敵な刻印ね。足の付け根には焼印も押されたようだし……すっかりあの狼のメスになっちゃったのねぇ。ふふっ、お気の毒に……」
「え」
さらに服の上からの無遠慮な視線。
……彼女、何を言っているんだ。
メス? なんというふしだらな言葉を……! しかも狼と。まさか彼を知っているのか。
ニヤニヤとした笑みを浮かべる姿がオレの知ってるアマリアではなかった。
目の前の彼女は本当にあの教会の娘で、オレを助けた聖女なのだろうか。表情やその振る舞いが違いすぎて戸惑う。
動揺しまくるオレに、アメリアはさらに歩み寄って囁いた。
「自分の呪いを解きに来たの? それとも王子様を救いにきたのかしら……吸血鬼さん」
「な、なんでそれを」
オレの事は人間だと思っていたはずだ。正体を彼女が知ってるなどとは。何かがオレの思っていた事と違っている。
彼女は、アマリアは一体何者なんだろう。
オレの混乱もお構い無しに、さらに彼女は言葉を投げかけてくる。
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