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「私はなんでも知っているわ。貴方の事も、彼の事も。遠い過去の忌まわしい夜の事も……嗚呼、キャロルおいで」
甘く切なげな声にキャロルを呼ぶ。
呼ばれた彼女はまさに飼い主に対する犬のような息を漏らしてその瞳は爛々と輝いた。
尻尾があれば千切れるほどに振りたくっているだろう。
「アマリア、アマリア、アマリア」
スキップするように駆け出すキャロルを手を広げて受け止め、そのまま二人の重なるように身体を合わせ始めた。
「嗚呼、キャロル……いい子ね、いい子……」
「アマリアぁ、ん……む、ぁ……ふっ……んッ…」
目の前で舌を絡め、深い口付けを交わす女たち。
あからさまな水音と、呼吸の合間に漏れ聞こえる鼻にかかった声。
蛇が絡み合うように手を足を腰をくねらせて密着する様に、オレは目を逸らすことすら忘れ見入ってしまう。
キャロルの恍惚の表情はまるで熱に浮かされたようであったし、それを抱きしめ手で愛撫しながらのアマリアの瞳は欲望でギラ付いていた。
「っ……ふふっ、顔真っ赤よ。生娘じゃあるまいし」
長い接吻の後に彼女は顔を上げて、揶揄うように笑う。
何故か酷く悔しくて、視線を下げる。
「私ね、このじゃじゃ馬……まぁ半分狼だけど、の娘が気に入っちゃったの。貴方のお陰でこの子に出会えたわ。ありがとう、吸血鬼さん」
腕の中の女の腰を抱いてその耳に吐息を吹きかけるように言う。
そんな刺激だけで感じ入るような女の声や仕草が、なんだかその……自分に重ね合わせてしまって顔から火が出そうな感覚に陥る。
すっかり興奮しきって、腰を揺らして鼻を鳴らす女の姿。他人の性的な場面は見ることがなかったから、正直直視出来ずにいた。
そんな姿が滑稽だったか、吹き出し笑われる。
思わずムッとして睨みつければ肩を竦めて返された。
「改めて自己紹介させて頂こうかしら。……私はアマリア。この町に暮らす魔女よ。貴方に呪いをかけたのはこの私。勿論、あの人狼にはちゃんと対価を頂く予定。……分かっているとは思うけれど、これは魂の取引よ」
なんてことだ。やはりレミーは魂の契約を交わしてしまったのだ。
その事実に深い溜め息が漏れる。
「そんなに悲しい顔をしないで。これも全て貴方の為なのよ。忌まわしき記憶を愛する人から取り上げるなんて、愛に満ちた愚かだけれど高潔の精神だわ」
「分かっているさ……」
分かっている。あいつはそういう奴だ。
幼馴染を守る為に魔女に魂を売り払ってしまうような。馬鹿な男なんだ。
ガキの頃の下らない約束だろう。
何が『お姫様』だ。オレは女じゃあない。どれだけ望んだとしても、二人が結ばれることはないんだ。
それをこいつは分かっていない。
「バカ狼め。本当に、馬鹿な奴だ」
馬鹿さ加減に呆れてモノが言えない。そして一番馬鹿なのは……そんな男に絆されつつあるオレ自身だ。
あの馬鹿が憎めない。それどころか自分が女であれば、なんてとんでもない事を考えてしまう。
遂にストックホルム症候群とかいうやつか。レイプされてソノ気になっちまったか?
……嗚呼、なんてこった。だとしたら、とんでもない話だ。
などと考え込むオレをアメリアは鼻で笑う。
「悩める子羊ちゃんに、私から2つの選択肢を与えてあげるわ」
―――その華奢な手には短剣が一本。
銀と金で装飾されたその柄には、紫の大粒の宝石が歪な形に嵌っている。
一見すれば何処にでもありそうな、人間界にでもそこらの武器屋でも売っているだろう。しかし、見れば見るほどどこか禍々しいモノの気がする。
月明かりが装飾に反射し、光を映して輝いているからか。
それとも、やはり魔女の差し出した短剣だからだろうか。
……そんな短剣を差し出され、導かれるように受け取る。手にすればズシリとした重みを感じ、オレは思わず胸に抱えるように持ち直した。
「さぁ運命を選びなさい。二つに一つ。それが魔女である私からの最後のプレゼントよ」
魔女アメリアは高らかに言った。
隣でずっと黙っていたローガンが、くすりと笑う。
悪魔と魔女……運命はこの手の中にあるらしい。
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