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魔女の悪魔の事情
膝にかかる絹のような髪を撫でていると、隣から不躾で無遠慮な視線が飛んでくるのが分かる。
「なによ」
私も空気なんて読まず、口を開けば『別に』と返ってくる。
でも振り向けばその表情は案外楽しげだったりするから分からないわ。
「アマリア。彼、大丈夫ですかね」
彼? ああ、あの吸血鬼さんのことかしら。名前は、ええっと……忘れたわ。
嫌ね、歳とると忘れっぽくなるなんて。
「大丈夫よ。もし思惑が外れても、計画そのものには影響しないから」
私がそう返すと、ローガン……ちっちゃなガキみたいな悪魔が小首を傾げている。
……こういうあざとい子供、居るわよねぇ。ショタウケ狙ってんのかしら。
「あれ、ちょっと特殊な魔具でね。あれで彼が愛しの人狼ちゃんを貫いたら最後、二人とも絶命するの」
「……はぁ。やっぱり」
呆れたようにため息をつかせて、私はすごく満足。
それだけ相手を出し抜いたってことですものね。
―――あいつらが死んだら、それはそれで魂が手に入る。
あの人狼のは私に、吸血鬼の子はローガンに。
でもこの具合だと、あの二人はめでたしめでたしで結ばれたのでしょうね。
それならそれで、人狼一族の王子様に恩を売れた事で後々の切り札になるわ。
あとは死ねばやっぱり魂が手に入るし。
どうあっても悪魔が得するように出来ているのよねぇ……私って聡明だわね。
「ドヤ顔して小鼻膨らませてる所悪いですけどね。……アメリア。貴女嘘ついてません?」
「あらやだ濡れ衣だわ」
「またまた……貴女が吸血鬼にかけたのは、忘却の魔法だけですよね? 恋愛成就のアシストする呪いなんて聞いた事ありませんよ!」
「そうでしょうね。無いもん」
んな呪いや魔法があれば、それ使ってもっと実入りのいい商売するっての。
「詐称したんですか。悪魔なのに!」
驚きと苛立ち混じりで腰を浮かせたこの歳若い悪魔を、私は老獪の眼差しを向けていたと思う。
「悪魔こそ誠実であれ、と? ふふっ、まぁアンタはそのままでいなさいな」
人間は悪魔を嘘つきで狡猾で悪者呼ばわりするけどね。実際は根本的に真面目な奴が多いのよ。
お仕事好きな人達なだけよ。私に言わせれば、人間や『神』とかいう奴らの方がよっぽどケチでこすっ辛くて狡賢いわ。
でも、そこが好きなんだけど。
「ま、あのガキも大人になったわよねぇ」
……私は初めてあの人狼に出会った夜のことを思い出した。
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