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偶然と言えば偶然。
そして運命というモノが本当に存在するのならば……きっとそれがそうなのでしょうね。
『あんた魔女だな』
思えば、いくつも年上に向かって生意気極まりない声の掛け方だったわねわ。
あの頃私も若かったからか、カッとなって振り向いて睨み付ければ。その視線は思ったよりずっとずっと地面に近いところにあった。
―――それが、レミーという人狼との出会い。
その時全身血塗れで足跡すら血糊の物騒なガキは、人を抱き締めて歩いていた。
同じ年頃の女の子……いいえ、とても可愛い男の子だったわ。
そして血でずぶ濡れのガキは、割にしっかりとした足取りで歩み寄ってきてこう言った。
『こいつを助けてくれ』
と。
確かにこの子の方が重症だった。首筋に大きな傷にそこからとめどなく血潮が流れていて、それが彼の衣服だけじゃなく手も足も顔すら浸していく。
放っておけば多分、死ぬ。
『魔女に頼めば助けてくれるって? 童話の読みすぎよ、クソガキ』
シンデレラでも読んでなさい、と突き放そうとした時。彼の一言で思いとどまったわ。
『対価は俺の、人狼の魂だ』
確かによく見ればまだ人間の容姿を完成に保ててないじゃないの。
ハロウィンじゃなきゃ目立って仕方ない。
……人狼、という響に私の喉はごくりと鳴る。
『あんたの望みは?』
彼はどんどん色を失って白から土気色の肌になる、友達が気になるのか抱え直しながら言った。
『こいつの傷を治して。そしてあの時の記憶を全て消して欲しい』
一つ目はまぁ分かる。
でも二つ目はなに、と訝しんだのは当然でしょう。
すると彼は私の疑問に答えるように付け加えた。
『こいつ、すごく怖がりだから……これでハロウィンを嫌いになったら可哀想』
思ったよりずっとガキっぽい動機に脱力したわ。
でも仕事は仕事。ガキ相手でも手は抜けない。
『そう。でも私の力では、記憶を封じる事しか出来ないわ……それでも、いいわね?』
―――彼が黙って頷いたその瞬間、契約は完了する。
魔法陣と淡い光の浮かび上がる中、私は手にする報酬の重さに歓喜した。
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