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「結局傷を治して記憶を封じてやったわけですか」
「そ。私、子供好きなのよねぇ」
「人狼、の……でしょ」
「うふふ、ご名答」
昔話しながら、自宅に招いたローガンのカップに紅茶のお代わりを注いでやる。
軽く頭を下げティーカップを持つ、彼の仕草はとても優雅だ。
「アマリアは対価に釣られすぎですよ」
「そうかしらねぇ……そうそう。このあとも何かと助けてやったのよ?」
レミーは、再び私の元に来て言い放ったわ。
『彼を俺の妻にしたい』と。
「……なんですか、それ」
苦々しい顔をして、ローガンが呟いた。
別に紅茶が苦かった訳じゃあない。単純に、それだけ頭おかしい依頼だったという事ね。
「幼馴染で初恋相手と結婚したい、なんて可愛いじゃないのよ」
「でも、それがフィンなんでしょ。魔法や呪いで何とかできる範疇じゃない」
そう確かにね。
だけど助言だけならできるでしょう……人生の先輩として。
それに彼はあの人狼の王子様よ?
ものすごいコネクションになるじゃないの。
「ちゃんと言ってやったわ『一人前の男になって、彼を迎えに行きなさい』……もちろん根回しと交渉の術も授けたしね」
「時間外労働じゃないですか」
「そ。ブラック企業なのよ? 悪魔って」
「うげぇ」
クッキー摘みほおばりながら、彼は肩をすくめる。
「その甲斐あって、着実に外堀は埋めてるみたいだわ……ほんと、優秀な生徒だった」
今は少し反抗期だけどねぇ。昔はあんなに可愛かったんだけど、残念だわ。
私は紅茶にジャムを入れてかき混ぜる。立ち上る果物の瑞々しい甘い香りが鼻腔をくすぐり、それだけで気分が良くなるというものね。
「あとはあの吸血鬼のお姫様が観念することね」
恐らくレミーの執着から逃げることは出来ないわ。
なんせ。
「『自分を選ばないのなら、二人で死ねば良い』なんて真顔で言い切った男よ?」
「うわぁ……じゃ、あの短剣も」
またまたご名答。
どこからあんなタチの悪い魔具探してきたのやら。
「でもあれでしょ。いくらなんでも結婚までは……」
ふふ、彼の言う通り。
由緒正しいお家にありふれる『お世継ぎ問題』
「ゲッ、まさか……」
少年悪魔が浮かべたのは、好奇というより嫌悪の入り交じった表情。つまりめっちゃ引いてる。
「子宮って、作れるのねぇ」
私のこの言葉に口の端をヒクつかせる美少年が面白過ぎて、私は紅茶を吹き出さないでいるのがやっとだった。
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