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蛇足の断り
「こっ、この……ケダモノ! 変態! クズ野郎……ッ」
オレは思いつく限りの罵詈雑言で、目の前の男を詰り倒した。
だって仕方ないだろう。
「母体に障るぞ」
「まだ妊娠してないぃッ!」
……オレは遂に、男ですらなくなったらしい。
正しく言えば子宮のある男、両性具有とかになるのだろうか。
これから先こいつの子供を宿して産むのは確定、なのだと。
「き、君一体どんな手を使ってそんなことを」
「……トップシークレット。機密事項だな」
「本人に隠すなァァァッ!」
胸ぐらを掴んで揺さぶっても、彼が心做しか嬉しそうなのがムカつく。
張り倒してやりたい、でもさっきも殴りつけたら逆に腕が痛くなっちまうし。
「フィン、可愛く怒っている所悪いが……俺たちには早急に取り掛からければならない問題が発生している」
「あ? ンだよそれぇ」
「我ら人狼一族の存亡に関わる事だ。お前にしか頼る事が出来ない。お前を男と見込んで頼みたいのだが……」
「そ、そりゃあ。オレで良けりゃあ」
突然声のトーンをシリアスに変えて、苦悩の表情を作るものだからオレは掴みかかった胸ぐらから手を離す。
このしおらしさは、らしくないがそれだけ真剣な話なのだろう。
「協力してくれるか」
「分かったよ。……協力する」
なんだかんだ言っても、こいつはオレの大事な幼馴染だ。しかもその、夫……だし。
花が綻ぶような笑みと共に、彼はオレの手を握り締めて感謝の言葉を述べまくる。
「そんなに持ち上げるなよなァ。で、一族の存亡に関わる問題……とは?」
「うむ。それはな」
彼に握られた手はギリギリと少しずつ締め上がっていくのを、一抹の不安を感じて見つめていた。
「少子化問題だ」
「え? ……ぅわぁッ!」
瞬発力と腕力で、突然ベッドに突き飛ばされる。
上等なスプリングは、僅かな軋みを持って男の身体も包み込んでくれるらしい。
そこに覗き込まれて大写しになった美丈夫の表情が完全に緩みきっていることで、オレはようやく嵌められたことを知る。
「あと跡継ぎ問題、今すぐ一緒に取り組まねぇとなぁ」
「で、デキ婚になるだろっ……」
自分でも何言ってんだって話だけど。でも体重かけて迫ってくる男の目が怖い!
突っ張ろうとした腕も易々と捕らえられてさらに距離が詰められる。
「おめでた婚ってやつか……悪くないな」
「言い方変えてんじゃあないぃっ!」
「でもな。ほら、ここに俺とお前の愛の結晶が出来るわけだ。喜ばしいだろう?」
「う、うぅっ……」
そんな心から嬉しそうな顔、出来るのかよ。
普段から基本無表情だから、満面の笑みってのが見慣れなくて違和感半端ない。
「男の子でも女の子でも良いよな。嗚呼、手始めに三人くらい作るか」
「手始めって数じゃあないっての」
「さっさと子作りするぞ」
「頼むから、その言い方やめてくれ」
諦めの境地も、ここまで来れば立派な覚悟だと思う。
彼の顔がゼロ距離まで近付き、存外柔らかな唇がオレの口を塞ぐまで数秒……。
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