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嫌悪の檻
夢を見た。
遠い遠い昔の夢だ。まだオレがガキだった頃の。
夢から醒めたオレが重々しい瞼をあけて、最初に目に入った綺麗な顔。
「起きたか」
「……」
目の前の琥珀色の瞳を真っ直ぐ、そして精一杯強く睨みつける。
こいつはレミー、狼男。
そしてオレは吸血鬼のフィン。
オレが彼によってこの屋敷に監禁されて、はや1ヶ月。
二度ほど、ここから逃げ出そうとしたがご覧の通りに失敗した。
そして生きている事すら苦痛と感じられるような屈辱と快楽に、シーツの中の地獄へと引きずり込まれる。
―――昨日の夜も『お仕置き』と称して、散々いたぶられた。気絶しても何度か起こされて手酷く抱かれて、また気絶して……卑猥な格好や言葉を強要されて。
最後の方、記憶が曖昧になっているが。その方が良かったのかもしれない。
……身体の節々が痛い。あと口にも出したくない場所の違和感が酷くて死にたい。いや、なんでオレが死にたくならなきゃないけないんだ。
殺したろか。この筋肉ダルマみたいな美丈夫をどうやって殺れるか分からんが。
そんな事を考えていると何を思ったかレミーのやつ、頓珍漢な事を言いだしやがった。
「声。出ないのか」
「はァァ? うるせぇよ、ケダモノがっ……死ね!」
レミーの言葉に中指立てて、掠れる声で吐き捨てた。
オレはこいつが大嫌いだ。何故かって? 当たり前だろう。ただでさえいけ好かなかった野郎に、こうやって朝から晩までレイプされ続ければな。
しかも、今のオレには服すら与えられていない。
身につけているのは手足と首の枷と、それに繋がった鎖。くらいのものだ。
何が悲しくて野郎の前でこんな情けない姿を晒さにゃならんのだ。
「元気そうだな」
妙に嬉しそうな声で返ってきた言葉。
普段表情乏しかったクセに、オレをここに押し込めてから機嫌は良さそうだ。
……まぁそうだよ。これだけ好き勝手すりゃあな。
でもな。オレはどうすりゃ良いんだよ。
曲がりなりにも幼馴染だった奴だぞ。
そりゃあ大人になってから互いに仲は良くなかったけどさ。それでも、こんな関係になるとは思わなかった。
しかもこのオレが……男にあんな事を強いられるなんて。
「これが元気に見えるってぇ? 脳みそだけじゃあなくて、目ん玉も腐ってんじゃあないの」
精一杯見下し馬鹿にした口調で罵倒する。
そうしなきゃ今にも自分が舌を噛んで死ぬか、こいつを殺す事を考えてしまいそうだから。
すると彼はやはりどこか笑みを含んだ顔で頷くと、大きいくせに指が長くて華奢にも見える手でそっとオレの頬に触れる。
先程までオレを凌辱していたその手で。そう思うと羞恥心と怒り、色んな感情が綯い交ぜになって思わず拳を握り締めた。
「っ……触んなっ、この駄犬め! お前なんかっ、お前なんか……大嫌いだッ!」
ヒステリックにその手を叩いて叫ぶ。
こいつが何を考えているのか全く分からない。元々分からない奴だが昔は……あの頃は違った、のにな。
「やれやれ。夢の中の方が楽しそうな顔をしていたのだがな……」
彼は手の焼ける子供を前にしたような顔で、小さく溜息をつく。
その態度に余計苛立ちを感じて、盛大に舌打ちして頭からシーツを被って蹲る。
これ以上、この駄犬の顔なんて見たくない。
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