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ギシリ、とベッドが鳴る。
高級そうなこの寝台でも、彼ほどの体躯の男が乗り上げれば簡単に軋むのだろうか。
シーツ越しに視線と気配を感じるが、肩を竦めることでやり過ごす。
突如訪れた無言の時間。
別に気まずい事はないけれど、手持ち無沙汰なもので。オレは不格好な鉄格子を眺めた。
……これは、恐らくオレが一度目に脱走した後に取り付けられたものだろう。
レイプされて、しかも初めてなのに散々揺さぶられ喘がされた。
人狼の血を舐めさせられたのも初めてだったもので、その甘露にも似た味に依存しそうで怖かったっけな。
そうだ。
窓を打ち壊して必死で逃げ出した先は人間界。
知り合いのいる教会に駆け込んだ。……吸血鬼が教会にって人間ならチグハグでおかしく感じるのかもしれない。
なんせ人間界で吸血鬼は十字架とニンニクが嫌いで太陽を浴びると溶けちまう……あとなんだったかな、そうだ。血を吸うと、吸われた方も吸血鬼になるんだっけ。
……デマだらけで笑えるよな。
まぁ確かに太陽は苦手だ。ここ魔界には、そこまで焼き尽くすような燃え盛る天体なんてものは存在しないから。
でも別に溶けねぇよ。
「フィン」
突然、あいつがオレを呼ぶ。
すごく緊張しているような硬い声だ。
でも触れてこない。触れようと手を伸ばしたのは気配でわかった。
あいつ、体温馬鹿みたいに高いから分かりやすいんだ。
「ンだっつーの。このバカ狼」
うじうじしてめんどくせぇ。ほんとに訳わかんねぇよ。こいつ。
そしたらレミーの奴、呟くように小さな声でこう言った。
「……あの夜、オレ達はどうやって帰ったんだろうな」
「はァ? 知らねぇよ。普通に歩いて帰ったんじゃあないのかよ……ガキだったし」
オレもまだ上手に飛べる年頃じゃあなかったはずだ。
ガキの頃の記憶なんてアテにならねぇけどさ。だってあれからどれだけ経ったと思ってんだよ。
「そうか。そうだな……嗚呼、そうだ」
「!!」
大きな溜息と共に、突然彼が僕に抱きついてきた。
シーツごと包み込むように、抱え込んで何度も何度も『そうだ』と呟く。
まるで自分に言い聞かせるように。
そしてオレを宥めるように。
「お前なぁ……熱いぜ、この筋肉だらけのバカ犬」
新しいプレイのつもりなら止めてくれ。オレは本当に疲れているんだ。
誰かさんのせいで。
……なんて毒を吐きたかった。
しかし昨晩の狂乱じみた行為を感じさせない、慈愛に満ちた声に、オレの頭を少しずつ睡魔が襲ってくるのを感じる。
温かくて、柔らかい。でも少し硬い。低くて心地の良い声が耳朶をくすぐった。
―――重かった瞼が再び降りる刹那、オレは額にシーツ越しのキスが落とされたのを感じたのだ。
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