窓辺の悪魔

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窓辺の悪魔

――目を覚ますとオレは一人だった。 大きなベッドの真ん中で。体温のとうに失せた隣を手でなぞりながら、今度は夢など見なかったとぼんやりと考える。 怠さと身体の節々の痛みはかなり改善されたが、それでもやっぱり秘部の違和感は耐え難い。 「trick or treat、か」 先に見た夢はオレンジ色の光に満ちていた。 あいつは狼男の姿そのまま、そしてオレは何故か紅い頭巾にエプロンワンピースのような……つまり女装をしていたっけな。 よく二人で出かける時、周りの目を欺く『変装』だとして彼にこんな格好をさせられていた記憶がある。 今となっては、あの変態狼の趣味だったんだろうと思うが。しかしあの頃は、ガキの頃のオレはあいつを信じきっていたんだ。 愚かなまでに、裏切られるとも知らずに。 「馬鹿みてぇだな」 独りごちる。一見豪華に見える家具、寝具、調度品。ぶら下がるシャンデリアさえも、オレには冷たい監獄にしか見えない。 ……出なければ。出て、今度はオレが姿を消すんだ。 でもどこに行く? 人間界のあの教会はダメだ。 アメリア、教会の娘は無事だろうか。 オレを匿ってくれた、唯一人間で心許せた存在。清らかで慈愛に満ち溢れた女。 彼女に会いたい。あって礼が言いたい。それから旅立っても悪くないだろう。 なに、人間界も広いさ。あの人狼の目が届かない場所くらい幾らでも……。 「それにはとりあえずここから出なきゃな」 失敗したら。 今度こそ殺されるか? いや、その方がマシだな。 理性も知性も剥ぎ取られた状態でまた罰を加えられる。死よりも辛い快楽で一生飼い殺されるのだろうか。 「オレに人権はねぇのかよ」 くそっ。なんでこうなっちまったんだ。 オレはただ人間界の美女の血を楽しんでいただけなのに。 そりゃああいつに何度も忠告されてたさ。 『人間界に行くな、狩られるぞ』って。 それが現実になって、オレは女に命を狙われた。銃弾は身体を掠って地面に伏した。命からがら逃げ込んだのがその教会で。助けてくれたのはアメリア。愛らしい娘。 彼女に焦がれたオレは、前にも増して人間界に足を踏み入れるようになった。 あの安らぎが懐かしい。嗚呼、こんな呪縛のような状態から解放されたかった。始終与えられる快楽に発狂に恐れる人生なんて嫌だ。 「どうしてなんだ、どうしてオレなんだ」 あいつからオレに背をむけたじゃあないか。 ガキの頃の約束をあの一晩で違えたのはあの狼だ。 大人たちが探し回る慌ただしい声を聞きながら、レースのクロスがひかれたテーブルの下での小さな約束。 触れるだけのキスと共に交わされた『永久の』約束……。思い出すだけで馬鹿馬鹿しい。でも、裏切られれば傷もつくものだ。 「レミー……」 「そいつが貴方に鎖を付けた男ですか」 「!?」 予期せぬ声に、オレは驚き顔を上げた。 格子の嵌った窓辺。しかも『内側』にいる!?
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