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彼が兎たちの食べ残したゼンマイを食べるために、林道に出た時のことです。ちょうどそこを、赤ずきんちゃんが通りかかりました。赤ずきんちゃんは、この国で最も愛らしい女の子です。某誌企画の「将来恋人にしたい女の子」コンクールで、ナンバーワンの座を三年連続でキープしているほどです。
彼女は、小さなバスケットを持っていました。その中味が、ケーキとバターであることは、匂いで判ります。狼は、グーグー鳴るお腹を気にしつつ、ふさふさしたしっぽを振りながら、赤ずきんちゃんの前に来て、言いました。
「赤ずきんちゃん、どこへ行くんだい?」
彼は、優しい赤ずきんちゃんなら、あのハンター達と違って、食べ物をわけてくれるかもしれない、と思ったのです。
そんな、彼の切なる願いを知ってか知らずか、赤ずきんちゃんは無邪気に笑いながら、言いました。
「うん!病気のおばあさんに、ケーキとバターを持ってってあげるの。とっても優しいおばあさんなのよ」
(そうか、病人のお見舞い品をとるわけにはいかないな…)
狼は、そう思いました。しかし、空腹(はらペコ)には耐えられません。お見舞い品を横どりするのは、彼の主義に反するのですが、
(おばあさんに直接頼めば、あるいは…)
そんな考えが、狼の脳裏にひらめきました。しかし、そのおばあさんの家の場所が判りません。そこで彼は、赤ずきんちゃんに聞きました。
「そのおばあさんは、近くに住んでるのかい?」
「そおなの!ほら、あの風車小屋の向こうにあるの。村一番すてきなお家よ!」
それを聞いた狼は、
「道草を喰わないで、早くおばあさんのところへ行ってあげなさい。森の中には恐しいハンターどもが、ウヨウヨしているからね」
と言うと、ふさふさしたしっぽを一直線に伸ばして、一目散におばあさんの家に向かって走り出しました。
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