つらい狩りから逃げて、その日出会った。

2/3
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 小鳥のさえずりが聞こえる。朝になった。娘は手早く身支度を整え、山菜取りに出かけようとしている。私が身を起こし、声をかけた。 「今日は狩りが休みなんだ。あの棒について教えて上げるから、一緒に森まで来なさい」 「あたい、面倒なんだけどぉ」 「いいからわっしと一緒に来なさい」  捨てるため反ってしまった棒を持つわっしの後を、不機嫌顔のヤーが付いて来た。ヤーは羽根製の髪飾りを髪に付けながら、腕では縄で編んだ物入れが揺れている。  森の獣道を抜け、小さな湖がある平けた場所に出た。亡き妻とその日、初めて出会った。  仲間と狩に出かけたわっしは、道にはぐれたふりをしながら、つらくて逃げてしまった。  この場所で隠れていたら、違うムラから木の実探しに来て、道に迷って、隠れている妻を見つけた。  あの日、わっしは、妻とここで出会ったのだ。  一目ぼれだ。結婚してからは、妻のために。ヤーが生まれてからは、家族のために。苦手な狩も、妻に励まされながら、逃げずに参加した。  初春の風に頬を撫でられ気持ち良い。ヤーは笑顔で湖のほとりに腰を下ろし、水面に突っ込んだ足で水の飛沫を遠慮なく飛ばしている。懲らしめてやろう。ヤーの髪飾りを近くに落ちていた、小枝の端で引っかけて取ってやった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!