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ヒノメが西の空に身を隠す頃、その残照に照らされた、自宅が視界に近付く。丸い竪穴に建てた萱葺きのありふれた一軒家だ。
わっしは狩人で手製の槍を手に、猪狩りから三日連続で空手で扉を開けると、煮炊きの甘い香りと生まれて十三年になる娘、ヤーの声が出迎えた。
「ヤーただいま」
「お父さん、お帰りなさい」
仕事道具の槍を壁に立てかけようとして、ぐつぐつと炉で焼かれる、土鍋が視界に入り、驚愕の声を上げてしまった。
「ちょっとヤー、何やってるの!」
深い作りの縄模様の土鍋に、あろうことか、自作の槍の柄に使うために用意した、木の棒でかき混ぜているのだ。慌ててヤーの毛皮製貫頭衣の裾を掴む。
「お父さんがやっと手に入れた槍に使えそうな棒を、鍋に突っ込むなんて酷すぎるだおる。」
ヤーはうっとうし気な顔で、ぷいっと横を向き、鍋をかき混ぜ続けている。
「だって、お鍋をかき混ぜる竹のしゃもじ、折れちゃったんだもん」
「どうしてご近所で借りてこなかったんだ」
「ご近所も夕飯時でしょう? 借りたら迷惑じゃん」
雑炊ができ上がり、娘が棒に触れないようにゆっくり抜く。真っすぐだった棒は反ってしまっていた。付着した煮汁を土の床に流しながら、素知らぬ顔で、お椀に雑炊を盛り、わっしに押し付けるヤーにぼやく。
「大事な棒、曲がちゃっただろう」
「うっさいなっー、仕方ないじゃん?」
ヤーは料理の前で両足を抱えて座っている。反ってしまった棒を横に置き、娘と対面で膝を折り曲げ座る。
『いただきます』
二人同時に手を合わせて、鍋からつけ分けた木の実が入った肉料理を口に運ぶ。夕食後、まだ外が闇色に染まる前に、娘は近くの川に体を洗いに行ったが、私はふてくされて先に寝た。
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