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ひとりで生きていく
友人の結婚式を終えて電車のグリーン席にひとりすわった私は緊張から開放され力がぬけた
いい結婚式だったなと撮った写真を携帯でみていた
自然に笑みがこぼれる
みんなしあわせそうだった
それに引きかえ私と言えば、まだ誰にも話していないが夫と別れたばかりだ
これからどうするか
夫が出て行ったマンションにひとり暮らすには広すぎるし、経済的に行く行くはきつくなるのは目に見えている
でも慰謝料はいらないとキッパリ言ってしまった
過失は夫にあったがそんなヤツからお金をもらいたくなかったのだ
女の意地だなんてカッコいいことを言ってしまって、すんごく後悔したのは事実だが今更、仕方ない
まずは仕事を考えないと
私は昔、新卒で入った会社でパワハラにあいそれ以来正社員ではなく、いつ辞めてもいいパートとして色々な仕事をして来た
働くのは好きだし、今も3つのパートを掛け持ちしている
靴屋さん、デイサービスでお年寄りのお世話、ホテルのベッドメイキングの仕事だ
毛色の違う仕事をあえて選んでやっていた
これからはひとりで生きていくわけだからパートでは苦しいかもしれない
なんにしようか
すると、ふーっと頭の中に忘れかけていたタクシードライバーのことが浮かんで来た
運転が大好きだからだった
前からやりたかった仕事だったが元夫が危ないからダメだよと反対していたので諦めていた
危ないからダメだよ
こんな優しいことを言ってくれていた時もあったんだな〜としみじみ思う
なーにが!鼻で笑っちゃうよね
馬鹿野郎!
私は想像の中でアイツの事を抹殺した
帰宅してからも色々考えて考えて考えた
やはり、自分に正直にこれからは生きて行こう
そう決めて、タクシードライバー 女性と検索してみた
昼間だけ勤務するを選択すればできるのでは、ないか
2年勤務すれば二種免許の費用は返済しなくていいらしい
こうして、私は新鮮な気持ちと不安な気持ちとドキドキする気持ちと入り混じってまだ整理できない心持ちのまま二種免許取得に乗り出した
タクシー会社と契約してから自動車学校へ通い、自宅で勉強を頑張った
晴れてタクシードライバーになり、初出勤当日
10時からの勤務に緊張から早すぎる出勤をしてしまった
あ、あ、あー
本日はご乗車ありがとうございます
あけぼの交通の菊田真理子が安全運転でお客様を目的地までお送り致します
何回も噛まないように練習する
名前を入れてまたの依頼に繋げたい
選挙活動みたいだ
名刺なんか作って女性客にリピートして頂けたら嬉しいからパソコンで手作りして来た
さて、発車
頑張るぞ
初めは街を流すより駅前から乗せるように会社から言われている
おばあさんから始まり会社に向かうビジネスマン、病院に向かうおじいさん連れの女性、夫婦に見えない男女、外国籍の人などなど乗せて走った
無我夢中で毎日が過ぎて行った
気がつくと私じゃないとダメと指名してくださる方も出てきてやり甲斐を感じられるようになってきた3年目
いつものように乗車業務をしていると会社から迎車の命令がきてその場所に向かった
到着した家は今風のステキな家だった
フォンを静かに一回だけ鳴らして依頼者を待つ
すると私より若い女性が出てきた
運転手さんすみません
もう一人拾ってから空港までお願いします
本日はご乗車ありがとうございます
あけぼの交通の菊田真理子が安全運転でお客様を目的地までお送り致します
はい、お願いします
発車致しまーす
しばらく走って言われた通りに行くとコンビニに男性が待っていた
その男性を乗せ空港に向かって走る
二人は恋人同士のようだ
楽しげに話している
日々、仕事柄、いろんな話が耳に入ってくるので本が書けるんじゃないかと思うほどだ
題して「真理子のタクシードライバーないしょ話」なんてね
イマイチか?センスなし?
すると、楽しげに話していた男性が急に一言も発しなくなったのだ
どうしたのかな〜と思いながら運転していた
彼女も怪訝な顔をしている
私も後ろが気になるがお客様だ
ジロジロ見るわけにもいかず
そのまま運転を続けた
空港に到着して男性が先に降りて彼女がカードで支払うと言って財布から取り出している間にチラッと男性を見た
私は全てが腑に落ちた
その日私は出会ってしまったのだ
元夫・・・
フロントガラスに提示してある運転手証明書に途中で気がついたのだろう
チラッと見たとき、私に向けた目は優しくまだ姓も変わっていなかったので一人で頑張ってきたんだねと言っているように感じた
一度は夫婦になったんだ
言いたいことは顔を見れば大体わかるものだ
彼女がカード決済を済ませて降車すると二人は手を取り歩いて行く
私に背を向けて歩いて行く
私はあの人が何を考えているのかわかる気がした
私もひとつ大きな深呼吸をして二人と反対方向に車を発車させたのだった
少しだけ強くなった私がそこにいた
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