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購買から教室へ帰ってきた池上は、提げていた白いビニール袋を机上に投げると乱暴に椅子を引いて腰を下ろした。
その引きずった音に後ろに座って談笑していた男子たちの肩が跳ねる。視線を向ければ腰を下ろそうとしている池上と目が合い、急いで顔をお互いに戻して乾いた声色で笑いあう。
池上はビニール袋から紙パックのお茶を取り出す。眉間に皺を寄せれば舌を打ちストローを紙パックにさした。
田所の野郎……!
授業の迷惑にならねえよう、小声で話してただろうが。つか、そんなパンデミックじゃありゃあしねえだから、ページ数間違えて伝わったくれえで授業に支障でねえよ。どんだけアタイらのこと馬鹿にしてんだあの薄気味メガネ。だいたい、アタイの事を見るアイツの目も気に入らねえってんだ。先々週に授業の時だって……クソッ。
内なる憎しみは紙パックを握る手に移る。
ストロー上口から茶葉の黄色の液体が吹きだせば、手の甲に垂れすぐに床へとポタポタ落ちた。
彼女の後ろに背を向けて座っていた男子Aに、目の前の友達Bは興味深く彼女の背中を眺めながらAのその強張った肩を叩いた。
しかしAは頑なに彼女を見ることはなく野次馬気質のあるBを戒める。その声色には怯えが含んでいた。
机はお茶の湖と化している。
あークソッ、めんどくせー。久しぶりに学校なんて来るもんじゃねーな。
池上は雑巾を取りに廊下へと気だるげに向かう。
黒板側のドアから池上が教室を出るのと同じタイミング、ロッカー側から二人の女子が小走りで教室へと戻ってきた。
「ーーじゃあ〜、どうやって田所殺しちゃおっか?」
は……?
雑巾掛けから雑巾を取って戻ってきた池上は立ち止まると、その不謹慎な発信下、彼女らの斜め後ろの席に座った。
田所を……コロス……?
その声は無理につくった空元気を精一杯煮詰めて甘くしたような、池上の耳にこびりついて離れなかった。それだけではない、そんなちんけな声色に似合わない単語を嬉々として目の前の女に尋ねているからだ。
肩まである艶やかな黒髪の毛先を器用に内に巻いた髪が特徴的な後ろ姿。
村上だ。
「どうやって殺そうかな……」
甘い声の彼女の相手をしているは、唸りながら腕を組み考える素振りを見せる。
項ほどの髪を一つにまとめ、眉が隠れるくらいの前髪を軽く分けている。
吉沢だ。
なんつー話ししてんだ。コイツら……。
「あ、こういうのはどう……」
何かを思いついたのか、吉沢が話し出す。
静かに耳を傾ける池上。
一方、池上の席では一向にこちらへ戻ってこない彼女に対し、男子Aがその友達Bとこのお茶の後始末を一体どうするつもりなのかと不安になっていた。
「正直、ナイフとか感触がえげつないのは嫌だから、鈍器で殴るのはどう?」
「ふむふむ、例えば?」
「例えば……」
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