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慶は、大丈夫だよ、とは言わなかった。
ゴミ袋を隅に置くと、テーブルの上のボウルを手にした。
「まずは、食べようか。人間、空腹だとどんどん悲しくなっちゃうからね」
ボウルには、シリアルが入れてあった。
「せめて卵でもあれば、目玉焼きくらい作ったんだけど」
今の秀一の家には、食料と言えばシリアルと牛乳、カップ麺くらいしか置いていないのだ。
そのシリアルも、二人で食べれば無くなった。
今日こそ、買い出しに行かなくてはならない。
「近所のスーパーに出かけるのも、だるいんです」
「重症だな」
今日は慶さんが一緒だから心強いけど、と話した後、秀一は自分の言葉に驚いた。
僕は、慶さんを頼っている。
昨夜、会ったばかりなのに?
「人間、誰かに頼ることも必要さ」
慶は、そんな秀一の心を見透かしたようなことを言う。
「俺を頼ってもいいよ、秀一くん」
その言葉に、秀一の眼からぽろぽろと涙がこぼれてきた。
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