夏奈の弁当2

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夏奈の弁当2

「え?」 「ん?」 「いや、どう?」 「ん? まあ……普通?」  そのまま白岩は窓際の自席まで帰ると寝始めた。  傷つく――――  と、いうよりも逆だった。心臓の高鳴りは止み、どこからか沸き上がる怒りを抑えるのでやっとだった。絶対あいつに『旨い』と、言わせてやらなければ、気がすまない。 「なにー? あの態度、白岩の奴!」  眉間にシワを寄せた弘子が白岩に向かって言い捨てる。その後、私を見た時には眉頭は上がり、申し訳なさそうな表情だった。 「ごめんね夏奈ぁ、白岩のやつ、美味しいって思ってるのに、言わないだけだよ絶対」  話の発端を作ってしまい、申し訳ないということなのだろう。両手を合わせて謝る弘子に悪気はない、それは分かっている、分かっていたのだが、自分を止めることが出来なかった。頭に血が上るのが自分でもわかった。 「ちょっと」 「ん?」  私は自分の弁当を突っ伏した顔を上げた白岩の前に叩き置いた。 「ちゃんと食べて」 「は?」  鬱陶しそうに眉間にシワを寄せる白岩、 「私のお弁当、まずいなんて言わせないんたから」 「は? 言ってねぇし、普通だから普通っつったんだよ」 「普通? どこが?」 「あーあー、悪かったよ、もう食わねえから」 「はぁぁぁあー!?」  言いたいことはまだあった、恐らく弘子に止められなければ私は白岩の頭を叩いていただろう。  「まあまあ」と、私の間に割って入った弘子と一緒に私は席に戻った。  別に言って欲しいと思っている訳じゃない。だが言われないとなんだか物足りなくスッキリしない。  とくにこの白岩零には、絶対に『旨い』と、言わせたい。  絶対に――――  翌日、私の鞄には二つの弁当が入っていた。  昼休みのチャイムが鳴る。白岩は毎日決まって食堂でパンを食べるのは知っていた。 「ちょと白岩っ」  昼になっても眠そうな顔、気だるそうに歩く白岩、彼は部活の時以外、冬眠中の動物みたいだった。私は両手を広げて彼の行く手を阻んだ。 「んだよ?」 「これ」  巾着袋に入った弁当を差し出した。 「食べて」 「は?」 「食べなよ」 「いや、いいよ」 「いいから!」  無理やり弁当を渡した私は自席に戻り、弘子の待つ自席に戻った。  白岩は仕方なさそうに小さな弁当箱を持ち、教室を後にした。 「何て言ってくるかな? 白岩の奴」  弘子がニヤニヤしながら私を見た。 「何でもいいわよ、美味しいって言われるまで、作り続けるだけ」  大きく息を吐くと同時に、座りながら言った。 「へー、そうなんだ」  弘子は相変わらず細い目で私を見ている。 「な、何? そ、それ以外に意味は無いわよ」 「別に、何も言って無いけど?」 「もうっ」  白岩に渡したのと同じ弁当を広げる。 有名料亭の和食弁当を思わせるような彩り、バランスも完璧だ。  「今日のはとくに凄い、気合いの入り方が違う」と、弘子は今日も私の弁当を誉めた。  予鈴が鳴り、クラスに人が入ってくる、白岩もそれに混ざり入ってきた。 「あっ、白岩」 「飯代ういたわ、サンキュな」  弁当箱をボンと私の手に乗せた白岩はこっちに顔を向けずに歩いて行こうとする白岩に叫んだ。 「ちょ、ちょっと どうだった? 味」 「ん? ああ、普通かな?」 「っ!」  奥歯を噛みしめながら、空の弁当箱を握りしめた。 「夏奈、あいつバカだからさ、照れてるだけだよきっと」 「明日もよ、明日も作るんだから」  駆け寄った弘子に肩を叩かれるが、私は白岩を睨み付けながら、怒りを抑えていた。
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