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夏奈の弁当3
「はいコレ」
「え? また?」
翌日、私は弁当箱を白岩の胸に突きつけた。今回はお父さんにアドバイスをもらい、鴨やキャビアを使ったフレンチをアレンジしたものだった。
席に帰ると、弘子が目を輝かせながら待っている。
「ねぇ夏奈、今日のはどんなやつなの?」
「え? いや……」
机に置いてある私の弁当を弘子が取り上げると、蓋を開けた。
「え、何これ?」
さっきまで輝かせていた目が、見開いた瞬間に元に戻った。それもそのはずだ、弘子の目の前にあるのは、冷凍食品と卵焼き、それとご飯のみの、質素な弁当なのだから。
「ハ、ハハハ、あいつの作ってたらさ、自分の作るの面倒になっちゃって」
「えー、夏奈でもこんなの食べるんだ」
弘子からぶんどるように弁当を取り返した。
クラスの男子に弁当を作るなんて、お父さんには言えない。自分のは夜中に気づかれないようにこっそりと作った。
「恥ずかしいとか言ってられないから。私のは、何でもいいのよ」
そう言うとわたしは箸をご飯に突き立てた。
その見幕からはそれ以上、何も聞くなと言っているのが分かったのか、弘子はその後、白岩や弁当の話をしなかった。
私は教室の入り口で予鈴が鳴るのを待った。
しばらくすると怠そうに歩きながら白岩が帰ってきた。彼は、空になった弁当箱を私の両手に乗せる。
「今日もサンキュー」
「え、それだけ?」
「あ? ああ、感想? 普通」
それだけ言って、自席に帰る後ろ姿を見ていた。
気がついた時には白岩の後ろから肩を掴み、無理矢理に振り向かせた。
「何よ、何が普通なの? どこが悪かったのか教えなさいよ!」
「どこって、全部だよ全部」
「ぜ、全部って、鴨もキャビアも、あんたには味分かんないだけじゃないの?」
「てか、味がよければ、食材なんか関係なくね?」
「はぁ? 食材がいいから、味もいいのよ、素人が分かったように言わないで! また明日作るからね!」
「ハイハイ、お願いします」
面倒くさいと言わんばかりに、白岩は机に突っ伏した。
「何その言い方!」
私は勢いよく振り返り、足早に席に帰った。昼からの授業は一切頭の中に入ってこなかった。
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