夏奈の弁当4

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夏奈の弁当4

「……はい」 「おう」  白岩に『普通』と、言われ続けて一ヶ月が経った。 「ちょっと夏奈、もう止めな、あんな奴に弁当作るの」 「だ、だめ……絶対、美味しいって……言わせ、るんだから」 「でも、夏奈もうボロボロじゃん、最近なんか凄い痩せたし」 「い、いいのよ、これくらい痩せたほうが……か、かわいい、でしょ」  私の痩せかたは異常だったのだろう。確かに、言葉を喋るのにもすぐに疲れてしまう。弘子の顔が日をおうたびに曇っていったのにも気がついていた。  思考を凝らしていた弁当作りも、さすがに一ヶ月続くと親にも不信感を与えていた。 「それに、最近夏奈のほうは、手抜き弁当オンパレードだしね」  弘子の顔が変わったのは私が蓋を開けた時だった。 「夏奈、それ」 「え?」  私の目の前にあるのは豪華絢爛な和洋折衷な弁当ではないか、ぼうっとしていて気が付かなかった、間違えて逆の弁当を渡してしまった。 「あぁー」  私は慌てて交換しに行こうと食堂に走った、急に走ったせいか、最近寝ていないせいか。頭痛がする、だんだんと目の前が暗くなってくる、だがこんなところで倒れている場合ではない、一日でも早く、白岩に弁当を誉めてもらうのだ。 「白岩!!」  食堂の扉を開けて叫んだ。  その声で、辺りは一気に静まり返った。そんなに大きな声で叫んだのかと思うほどだった。だが振り返ったのは違う人ばかり、肝心の白岩の姿が見あたらない。 「白岩ならこの前、屋上の階段から下りてくるの見たぜ」  食券に並ぶ一人の男子が言った。 「屋上? ありがとう」  誰だか分からないが、情報をくれた男子に感謝した。くるりと反転し、一目散に屋上をめざす、一段飛ばしに階段をかけ上がる、踊場でたむろする男子、ゆっくり上る女子の間を抜けて屋上についた時には、顔中汗だく、髪はボサボサ、だがそんなことを気にしている余裕は今の私には無かった。  重い扉を押し開けると、男子生徒の後ろ姿があった。  いた、白岩だ! 「白岩! あんたその、弁、当……」  なぜだろう、自分の声が聞こえない――――  足、踏み出しているはず――――  なんで? 視界が下がっていく――――  地面が近づく――――  最後に見たのは、屋上の荒れたコンクリートだった。視界が真っ暗になる――――  ただ、  私は、この、弁当を……白岩に――――
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