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指導
その日、新しい職場で私は出会った。
丁寧に教えてくれる指導担当の男性社員。
かっこいい。
素敵な人に出会えたと思ったのに
左手の薬指には指輪がしてあった。
いいなと思う人は既に結婚してる世の中。
「それじゃあ、始めようか」
「は、はい」
至近距離で仕事を説明してくれる。近すぎて耳に息がかかる。緊張しちゃう。
「う〜ん、い〜ね〜。濡れてるね〜。よく濡れてるよ〜。すごくはやく濡れるんだね〜」
「は、はい」
「こんなに綺麗に濡れるなんてすごいね〜。でもまだ始めたばかりだからゆっくり練習していこうね〜。はみ出さないように綺麗に濡れるようにね〜」
「は、はい」
だ、だめだ。どうしても「濡れる」って聞こえる。
セクハラ?
私、セクハラされてないよね?
「おお〜。うまいね〜。よく塗れてるね〜。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
これはセクハラじゃない、セクハラじゃない、と自分に言い聞かせる。
セクハラ上司じゃないよね。
早く慣れなくちゃ。
私は新しい職場でゆるキャラ人形の制作をしている。
色塗り担当だ。
はやく塗れるようにがんばる!
完
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