第二十三話 瑠美⑶ 少女よ、告白せよ③

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第二十三話 瑠美⑶ 少女よ、告白せよ③

「焦らないで。誰かに出しぬかれた気がしていても、必ずチャンスは巡ってくるわ」 「チャンスが巡ってくる……」  私が復唱すると「そうよ」と南美の唇が言い聞かせるように動いた。 「――わかりました。なんとなくすっきりしました」 「気がかりなことがあったら、また来てね。待ってるわ」  私は「そうします」と返すとふらふらとカウンセリング室を後にした。クリニックを出ても、南美の声が脳髄の奥深くにまで染み渡っているようで、現実感が乏しかった。  そんな私を現実に引き戻したのは、ふいに背後から投げ掛けられた声だった。 「あら、瑠美さん、これからボランティア?」  振り返ると、路上に沙羅が立っていた。 「あ、いえ……今日は休日で、これから家に帰るところです」 「そう。私はついさっき図書館に行って来たところよ」 「図書館……」  私はふと、奇妙な感覚に囚われた。沙羅の持つ現実離れした雰囲気と、図書館という堅い場所とがいまひとつ、ちぐはぐに思えたからだった。 「そう、ちょっと調べ物があって。……あ、そうだ。この記事のコピー、あなたにあげるわ。すぐには意味がわからないかもしれないけど、帰ったら目を通してみて」  沙羅はそう言うと、新聞記事のコピーと思われる紙片を私に手渡した。 「それじゃ、またね。美生くんによろしく」  そう言うと、沙羅は私の内面のもやもやを見透かすかのようにくるりと背を向け、足早に立ち去った。私はなぜか安堵の溜息をもらした。南美に会ったことを言わずに済ませたのは、正解だったかもしれない。  ――別荘か。私にもそんな場所があれば、少しは気分が浮き立つかもしれない。  この澱のように溜まったもやもやを吐き出すには、今の環境は窮屈すぎる。  少なくとも私の周囲にいる人たちはどこか皆、隠しごとをしているようで気を許すことができない。私は沙羅から手渡されたコピーをバッグにしまうと、地下鉄のホームへと降りていった。
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