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「……おなか減ってるの」
そう言われてもなぁ、とカイは思った。
ていうか、誰だ。こんな夜中に、こんな道端に座り込んで。そしていったい何歳だ。親はどうした。家はどこだ。お子サマは普通寝てる時間だろ。
いろいろ疑問があり過ぎて、とりあえず目の前の幼い少女をじっと見つめるカイであった。
「おじちゃん、なにか食べるもの、持ってない?」
「まだおじちゃんじゃねぇよ、お兄さんだ……って、答えるとこはここじゃねぇな」
はぁ、と大きなため息をつく。
「そうだな、とりあえずちょっと質問。お嬢ちゃん、名前は?」
「……エマ」
「そうか、じゃあエマちゃん。キミいったい何歳だ?」
「……10歳」
「なるほど。じゃあ、10歳の女の子がなんでこんなとこ居るんだ? いま何時だがわかってっか? 夜中の1時だぞ? 親はなにしてんだ? 家はどこだよ?」
「えーとね、それはね……」
少女は可愛らしく小首を傾げた。
「……ひみつ、かな」
「秘密ゥ!?」
カイはすっとんきょうな声を上げた。
彼は子どもがあまり好きではない。しかしそれでもこの少女のことを心配して声をかけたのである。
それなのに答えは「ひみつ」とか、フザけた返事しやがって! と思ったのだ。
だが、少女は切実な顔でこう続けた。
「うん、ひみつ。だれにも、話せないの」
「はァ……?」
「だれかに話したら、わたし……」
そう言って少女はうつむいた。
どうやらこのエマという少女、ワケありらしい。
この街は、はっきり言って治安が悪い。犯罪に巻きこまれる子どもも数知れない。このエマという少女も、そんな子どものひとりなのだろうか。
そして誰かから、なにかから逃げてきて、こんなところでお腹を空かしていたのだろうか。
「……わかったよ。オレんちに来い。サイボーグ用ペーストしかないが、生身のヤツが食っても大丈夫だったハズだ。それで良けりゃあ食わしてやるよ」
「いいの!?」
「ああ。泊まっていってもいいぜ。ただし、1晩だけな」
「やったぁ!! おじちゃん、サイコー! きゅーせーしゅさま!! ばんさーい! ばんざーい!!」
「っるせぇな! いま夜中の1時だぞ!」
しかし、カイは知らなかった。
この少女とは、とても長い付き合いになるということを……。
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