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そういうわけで、久しぶりにメイファはカイの住むアパートへやって来た。
「おーいエマ、帰ったぞー」
「おじゃまします、ってうわ、相変わらず汚い部屋だな」
その汚い部屋の奥から、ぴょこんと小さな金髪頭が飛び出した。
「あっ、やっぱりメイファさんだ! どうしたの?」
「おや、よくわかったね。こんにちは、エマちゃん」
「こんにちは! おじちゃんも、おかえりなさい」
「だから、おじちゃんじゃねぇってば」
不満げに顔をしかめるカイを後目に、エマはメイファに頭をなでられてごきげんだ。会ったのは昨日がはじめてだというのに、すっかりエマはメイファに懐いている。もっともそれはカイに対しても似たようなものだ。メイファがしっかりしていて子どもに優しいというのもあるだろうが、エマのほうも人懐っこいたちなのだろう。
「買い物してる途中で会ったんだよ。今日はコイツがメシ作ってくれるってさ」
「ほんと? どんなお料理つくるの?」
「野菜炒めとタマゴのスープをつくろうかと思ってたんだが……、よく考えたらキッチンの掃除が先かな?」
「いや、それは一応出掛ける前にやっといた」
「そうなのか? ずぼらなお前にしてはずいぶん用意がいいな」
「『ずぼらなお前にしては』は余計だろうが」
「お掃除、わたしも手伝ったんだよ! すっごくたいへんだったけどね」
「おおそうか、えらいえらい」
そんなことをしゃべりながら今日買ったものを袋から出し、冷蔵庫などにしまっていく。これもエマが手伝ってくれた。
それから久しぶりに棚の奥から引っ張り出したという包丁とまな板を使い(包丁なんか握ったこともないと言っていたカイだが、いちおうこの部屋に越してくる時に買ってはいたらしい)、メイファが野菜を切っていく。まず半分に割ったニンジンの片方をいちょう切りにした。そしてもう片方も同じようにするのか、と思ったら、包丁をカイのほうに差し出してきた。
「カイ、今度はお前がやってみろ」
「うぇっ!?」
「さっき切ってる時にやり方は解説してやっただろう。それともキミのことだからちゃんと聞いていなかったのかね? 不真面目な生徒だ」
「聞いてたよ! けど、そんな、いきなり……、てかなんだよ、急にセンセー気取りで!」
「いいからやってみたまえ。何事も経験だよ、カイ君」
「おじちゃん、がんばって!」
からかうメイファに、無邪気に応援するエマ。
「わかったよ、やるよ! やってやるよ!」
カイはむくれながらも包丁を手に取った。
――しかし。
「……やべぇ。刃こぼれしてる」
「ウソだろう、そんなことになるのか……」
「えっ、どうしたの? いますごい音したけど、おじちゃんはケガしてないの?」
「まぁな。でも包丁がダメになっちまった」
ニンジンを切ったその瞬間、カイの指に思いっきり包丁の刃が当たったのだ。普通なら血が出てくるところだが、カイはサイボーグだ。しかも、実は世間一般のモノより頑丈にできている。よって包丁の刃が刃こぼれするなどという珍妙な結果になったのだ。
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