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白昼夢・ディナー・ショウ
「おい、バク。此れで手を打て。」
ビッ、と勢いよく破られた一頁の原稿用紙。
ジュンが綴る《物語》だ。
嗚呼、本当に、オイシカッタナア。
、、 、、、、
マタ、喰ベタイ。
何時もの胡散臭い笑顔が途端に搔き消える。
代わりに現れたのは、曇り一つ無い、純粋な空腹感。
「……白昼夢・ディナー・ショウ。」
静かに獏が告げる。
パレェドの騒がしい迄の、音楽。獏の背後から、仮面を付けた象がゆったりと這い出して来る。其れに、ベネチアで見る様な、サーカスの、曲芸師たち。火の輪潜りの猛獣。華やかな、踊り子。並べられた、煌めく銀食器。目が痛く成る程に、色鮮やかなショウ。なのに、対照的な蠟燭と、皿の純白さが、矢鱈と不気味さを醸し出している。だからだろう、ぼやく様に呟くしか、無かった。
「……これは、夢だ。」
「そう、的を得ているじゃないか。此れは、バクが創り出した、白昼夢。」
ジュンと呼ばれた青年の声が、濃霧の中で反響する。
「僕が、視ている、夢。だからお前は、絶対に僕を倒せない。」
的当て宜しく、ナイフとフォークの切っ尖は。頭が割れそうな。音楽、が。ゆっくりと、此方を向いて。勢い、よ、く。
✴︎
「いやあ、今回も余裕だったねえ、ジュン。流石だよ。所でさ。」
「コレ、だろ。面倒臭えなあ、毎回。困り者だよ、本当。バク、お前帰ったら絶対なんか旨いもん作れよ。」
「炊飯器の白米が余っていたから、握り飯をこさえるかなあ。鱈子と焼き鮭、大葉に梅肉、じゃこと山椒。副菜はほうれん草の胡麻よごし。吸い物は豚汁でどうかな?」
「筋子も入れろ。」
「ジュンは心配性だなあ〜。」
「まあ、そんな所もオイシイけどね。」
、 、 、、、、
イタダキマス
ばくり。
バクに喰われる感覚は、未だに慣れない。
俺の感情、俺が書いた、《物語》。
綯交ぜに成って何れが、ホントウ、か分からなくなる。俺の、文章。俺の。俺の?
「ゴチソウサマ、でした〜!」
馬鹿らし。
「喰ったんなら、早く帰るぞ。じゃねえと、バクだけ置いてく。」
「またまた。僕も具材の買い出しに行かなきゃだからね、ジュンもジュンのご飯が無いと。」
ぐっ、と眉間に皺を寄せ、言い淀む潤。
「五月蝿い、」
「ぎぶあんどていく、って言うんでしょ。」
ふっふっふ、何が面白いのか、妖しげに笑う、獏。
「まあ、でもさ、ジュンは絶対。」
逃がさないけどね。
了
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