2.気付けなかった警告

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2.気付けなかった警告

 俺が住んでいるこの街は、首都圏の某半島にある(ひな)びた地方都市だ。車を十数分も走らせれば太平洋にぶち当たり、南北にやたら長い海岸線があったりする。  で、俺は今、そんな街の海の方へと向かう道を、車で走っているのだった。  この辺りは街の中心部からはだいぶ離れており、土地が安くてだだっ広いからか、中小零細の運送屋がいくつもあって、何台ものトラックを停めている。  たまに見られる商店と言えば、せいぜいコンビ二くらいなものだ。めぼしい飯屋があるような気配すらない。  だが、その店は確かに存在していた。  どこからどう見ても民家の一部を改造した作りの店だった。それも、昭和の雰囲気を漂わせた古めかしさ。薄い水色の安っぽい外壁は、指で触れて擦ればきっと白いものがこれでもかと付着することだろう。  外から見たところ、照明は暗く、薄ぼんやりとしていて、普段ならば絶対に入らないような店だとわかる。  俺は、腹が減っていたり、あるいは興味を持った店ならば、どんな店だろうと遠慮なくずかずかと入り込んで行くタイプの野郎なのだが。この店に関しては、そういった興味を抱くことはまるでなかった。今まで一切、魅力を感じる事はなかったのだ。  そうだ。この時点で悪い予感に気づかなければいけなかったのだ。しかし、俺はこの時、極度の空腹と共に、溜まりに溜まったストレスによって、正常な思考を失っていたようだ。  ともかくも、俺は店の横にある、駐車場とすら言えないような、砂利の敷かれたスペースに車を停めていた。 「……」  店の外壁はどことなく黒っぽくなっており、塗装の塗り直しでもした方がいいんじゃねーかなとは、後になってから思う事だったが、その時の俺は深く考えることなく、店名が書かれた黄色いビニール屋根の下に立ち、店の引き戸をガラガラと開け、中へと入っていったのだ。 「いらっしゃいませ」  眼鏡をかけた恰幅の良い店主が俺を一瞥してからそう言った。  カウンター席が五、六席程度しかない、小さな店だった。客は俺一人で、待ち時間用と思われる、某団体の機関新聞が置かれていた。  まあ、個人の主義主張などに興味はない。飯屋は、飯が美味ければそれでいいのだ。  俺はおもむろに席に座り、壁に張ってあるメニューを眺め見る。そしてそこに書いてあったものに興味を惹かれたのだった。店の名前と同じであるからして、きっとそれは、この店にとっての看板メニューなのだろう。  ……ああ。店主の名誉のために、一応店の名前は伏せておくことにしよう。それでもあえていうのならば『KKラーメン』……とでも申しておこうか。KKが一体何の略なのかは、頼むからそれ以上は詮索しないでもらいたい。深く知ろうとするのは野暮というものだよ。 「すんません。その、KKラーメンって、どんなラーメンなんです?」 「はい。主に魚介を使用したラーメンです」  ああ、なるほどね。ここら辺海が近いからか、魚介が看板メニューなわけだ。納得がいく。  俺は別段魚介が好みってわけではないのだけど、初めてだし、看板メニューを選択することにした。看板メニューなら、間違いが無いというものだろう? 無難な選択だったと思ったのさ。この時はね。 「じゃあ、それにします」 「ありがとうございます」  こうして注文が行われると共に、店主はおもむろにカウンターから出てきて、店の片隅に置かれていたクーラーボックスを開け、ごそごそと何かを取り出していた。 (何だ?)  どうやらクーラーボックスの中には、ビニール袋に入れられた、恐らく魚介の、いや、魚ではなさそうだ。……貝類だと思われる具材が入れられていたようだ。 (んん?)  いやまて。クーラーボックス? なぜ、文明の利器たる冷蔵庫を使わないのか? もしかして、ここから車で十数分くらいのところにある、K漁港辺りで釣ってきたとでも言うんか? っていうか、ちゃんと冷えているんだろうなそれ?  色々と突っ込みたい気持ちが込み上げてくるが、俺は腕を組み、黙して待つことにした。  それから、カウンター一つ隔てた目の前では、愛想の良さそうな店主が、妙に狭っこい厨房で調理を始めていた。
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