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「クスっ、何でぬいぐるみ」
どこを持っていいか分からず、とりあえず手頃そうな首のクビレを掴み上げる。
持ち上げられたヌイグルミは足が延び、更に巨大になった。
150㎝は余裕で越えたな。
「何でって?そりゃお前・・・」
目があった。真っ黒なプラスチックの瞳が俺を見た。
頭部と同等ほどあった首回りは俺に捕まれ、みすぼらしくねじ絞め殺された鶏の首ほどに頼るべき骨もなく右へ左へされるがまま。
「犬が物欲しそうにしてんだけど。これあげてい?」
箱から次々に出てくるサプライズに内心でっけぇ声で愛してるぞと叫びたい心境。
たぶんコイツにも伝わってる、俺の言葉に可愛げがなくても嬉しいぞって感情は声に染み出てるはず。
「っな!おま!犬にやるな!!クマかわいーだろー?」
「可愛い?いや、可愛くねぇよ?全然」
「ちょ。すげぇ探しまくったんだぜそれ。俺に似てんしょ?そのクマ面。俺、ほら。ずっとそばにいてやれねぇからさ。それ、いたら、少しは寂しくねぇかなって。お前底無しのさみしがりだからさ、少しでもって思って。離れてても俺の気持ちはいつもお前んとこにいんよ。お前の気持ちも俺の横にいつもあんよ。今も、明日も、そん次も。その・・・誕生日おめでと。アオイ、愛してる、愛してんよ」
電話の向こう、アイツが真剣に絶対伝えるんだと覚悟を決めて、アイツの意志でアイツの言葉でアイツの気持ちを俺にくれた。
いつだって照れ臭くて言葉にできねぇお前と、いつだって気恥ずかしくて茶化したあげくあげつらうような事ばかり言っちまう俺。
「・・・っ。はははっ、え、どした。まじかっけぇ惚れる」
ソファーに放り投げたばかりのヌイグルミを振り返る。
違う、すげぇ嬉しくて。けど、どーにもこーにも照れくせぇ。好きじゃねぇ相手にはいくらでも愛してるなんざ言えるのに。
どうして本気で大事な奴には言えねぇかな。この男に伝えるためだけの言葉のはずなのに。
愛していると伝える。と強く心に決めねぇと言えないようなことだっただろうか。覚悟?そうか、今、覚悟がたんねぇのは俺か。
そもそも本気の愛しているなんて誰かに伝えたことがあっただろうか。
「あーおーい」
返事を曖昧にしてぇわけじゃねぇ。
どうやらその愛してるを伝える覚悟とやらを腹に据えるのに、時間を稼ぎたかったようだ。
誤魔化すように俺は笑っていた。
「お、おう」
「アオイ」
底無しに優しい声だった。付随する余計な言葉はなくて。
ただすげぇ優しい声が俺を呼ぶ。
「愛してる」
1拍おいて、深い声が聞こえた。どこまでも深く深く、柔らかい波のようなそんな声。
「あぁ、・・・俺も愛してる」
「やっとくれたな。嬉しいよすげ。とにかく愛させてくれな。一緒になったら毎日好きだって言うよ俺。毎日気持ち伝えてぇ。や、今も毎日伝えてくけど」
「はずい。あ、つか、ちゃんとこの指輪にキスした?してから送ったよなもちろん」
「…お、う。した。…した!したっつーか全部ベロベロ舐めまくろうかと思った」
「クハハっ、うける。ほら、指輪つけたし、今しろよ。お前のに今キスしろよ」
数秒、いや、もっと短い時間お互い無言になって。
互いの薬指に、互いの気持ちを込めてキスをした。
「あ、確かに全部ベロベロしたくなんなこれ。お前がしたとこ俺分かんねぇじゃん。ベロベロするしかねぇな」
「あははは、だろ!ベロベロしろべろべろ」
「するかボケ。な…。あんがと、すげ嬉しいよ俺」
「おう、俺もすげぇぇぇ嬉しい。…好きだよアオイ。ずっと好きだ、ずっと一緒にいようなこれからもずっと――」
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