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次の日。
昼休み、咲は屋上へ続く階段の前で迷っていた。
ーーどうしよう。
”話をつけてくる”って、玲央君は言ったけれど…
咲の脳裏に、悲しげな『瑞穂』の顔が想像されて、消えずに浮かぶ。
”お前がしてることって残酷なことってわからない?”
月島先輩の顔も浮かびーー咲は胸を押さえる。
ーーワガママでも。何でも。
この恋が。玲央君次第でいつか終わる”期間限定”の恋だとしても。
やっぱり、好きだからーー
ゆずるなんて気持ちは、傲慢だから…
ぶつかるんだ。
瑞穂さんに…
咲は階段を見上げた。
玲央君に…会う。
諦めない…。
「…江藤咲」
その時、背後から聞き覚えのある声がした。
ビックリして振り向くと、『橋本先輩』が立っていた。
スパイラルパーマの人。前に、『瑞穂』と一緒に、咲を囲って壁を塞いだ先輩だ。
「…」
咲が振り向くと、『橋本先輩』はずいっと近づいた。
思わず俯く咲の顎を指で上向かせる。
「お前…諦めないの?」
「…はい…」
咲が、小さく言うとーー
「…悪いことは言わないから、瑞穂とは関わるな。
あいつ、わがままお嬢様だから、正直何するか、わからない。
玲央に執着してる。絶対別れないって言ってるし、お前とは絶対に別れさせるとも言ってる」
「…」
ーーえ…
「それでも、諦めずに玲央と付き合うってなら、お前自身が傷つくことも、覚悟しろよ?
お前はもう、玲央の”弱点”になってる」
「…!」
素っ気ない態度なのに、言っていることは咲をとても心配してくれることが伝わる内容で…意外で…咲は何故か、あたたかい気持ちになった。
「あ…あの、…ありがとう、ございます」
「は?」
「…心配して、くれてる、んですよね…」
うかがうように見上げると、橋本先輩はフッと笑った。
「俺ぐらいを相手にしとけばまだ平和なのにな、”咲ちゃん”。
玲央の”オンナ”っていう立ち位置は、思ってるより色々大変だぞ」
「…おい!」
橋本先輩のカラダが突然後ろに傾いてーーその背後から月島先輩が突然不機嫌この上なく現れた。
「あ…」
ーー…怒って…る…
月島先輩が橋本先輩の胸倉を掴み上げ、顔を近づけギロリと睨んだ。
その迫力に震えるーー
「橋本、いい度胸だな。
咲を誰の”オンナ”と思って手ぇ出してんだ!?ああ?」
橋本先輩は笑いながら両手を上げて降参のポーズをした。
「玲央…話してただけだ」
「俺の”オンナ”と勝手に話すな!
…おい!」
「あの玲央が…本気、なんだな…」
今にも殴りかかりそうな月島先輩の背中に、咲は抱きつく。
「玲央君…!
やめて!お願い…」
月島先輩のカラダからフッと力が抜けてーー橋本先輩の足が地面にしっかりついた。
しばらく興奮を抑えるように息をしていた月島先輩が、口を開いた。
「…二度は許さん」
月島先輩が冷たく告げると、橋本先輩は『わかった』と言って、去って行く。
「咲」
低いままの声で言われ、目線を送られてーー咲は縮み上がる思いだ。
「…はい」
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