悪意

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その日の夜。 咲を迎えに行った後、凌一は咲が宿題をしている間、久しぶりに酒を浴びるほど飲んだ。 缶や瓶がたくさん並ぶ。 「おとうさんが…お酒なんて、珍しいね」 「ああ…」 「そんなに飲んで、大丈夫?」 「…うん」 いつもより無口な『おとうさん』の異変に、咲は気づかなかった。 寝る時間が近づいてーー咲は静かに切り出した。 「おとうさん」 「…何?」 「私、もう大きいし、…もう、別々のベッドで寝たいな…って思ってる」 月島先輩に、”他の男に触らせるな”と言われ、『おとうさん』と一緒に寝ている自身の違和感も日に日に強くなっていた咲は、とうとう言ったのだった。 凌一の目は酒に濁ってーー喉の奥に何かつっかえているように気持ちが悪い。凌一は感情のない瞳で答える。 「そ…か…わかった。 じゃあ……、買うまで待って。 家には客用の布団もないし、今度の休みでベッドを買いに行くまでは…、それまでは… 一緒でいいか?咲?」 「うん!」 咲は心底ホッとして、笑った。 2人はいつものようにベッドに入る。 「おとうさん、お酒臭い…」 「すまん」 ほどなく、心地よいまどろみが咲を包む。 「咲…」 凌一の静かな声。 「ん?」 眠りから引き戻され、咲は目を薄く開く。 「お前、好きな人、いるのか?」 一瞬止まる、息。 咲は小さく 「いないよ…」 と言った。 ーー俺に、嘘を、つくのか… 凌一の脳裏に、小さい頃から素直で可愛かった咲の姿が浮かぶ。 蝶々を追いかけている咲。 …参観日に手を上げている咲。 父の日の似顔絵をプレゼントしてくれる咲。 …ころんで泣いている咲。 『おとうさん、大好き』って抱きついて笑う、咲…。 「咲、…学校をサボったことが、あるのか?」 「え、ないよ…?」 咲の顔は、どうしてそんなことを聞かれるんだろう…とでも言いたげだ。 ーーこれも、嘘、なのか。 平然と、嘘を。 世間知らずな咲… 男が騙すのは簡単だろう… やっぱり、咲…お前は…もう…。 まさか妊娠も、してるのか…?
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