新しい客

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 彼がどんな仕事をしているかは知らない。毎日顔を見せたかと思えば何日も来ない日もある。  まぁ、食べっぷりを見たい沖としては、彼が来ない日は残念だと思うくらいにはなっていた。  さて今日は店に来るだろうか。大抵は八時から閉店近くの間にくるのでそろそろだろう。  はじめは彼が来ると落ち着かない様子であった常連客も、静かに食事をする彼を気にしなくなった。  だが、今日に限って河北が出入り口を気にしてそわそわとしていた。 「河北さん、どうしたの?」 「へへ、内緒」  と唇に人差し指をあてる。  内緒といわれると余計に気になるが、話してくれるまで待つしかなさそうだ。  ガラス戸が開いては河北が振り向く。だが、目当ての人がこないようでがっかりとしながら酒を飲む。それを何度か繰り返したのち、大柄な男が店へ入ってきた。例の彼だ。 「いらっしゃい」  そう声をかけると、ぺこりと小さく頭を下げて、カウンター席へと腰を下ろした。 「待ってたよぉ」  と河北が彼の席の近くへと移動をする。まさか河北が浮き足立っていたんは彼に会いたかったのか。恐がっていたくせに、一体どういう風の吹き回しなのだろう。 「駿ちゃん、ビール追加ね。お兄さんもどう?」 「俺は、定食だけで」  と断りを入れる。酒が苦手なのかと聞けば、そういう訳ではないとこたえた。 「あぁ、そうか。お兄さん、刑事さんだものね」 「え、そうなの!」  河北の言葉に驚いた。そして納得もした。だから普通の人と少し違う雰囲気を持っていたのかと。
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