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食堂でたまたま舞を見つけた時、拓は身体が少し浮いた気がした。
自分でも浮かれた声が舞の名を呼び、手を振る。
「舞ちゃん」
舞はテーブルに買ってきたらしい昼食のトレーを置き、手を振り返してくれた。
その顔が少し困っている。
あれ?と、浮かれた心にちょっとブレーキをかけながら、舞に近づいていくと、目立つ二人が目に飛び込んできた。
「二人もいたんだ」
思わず拓がそう呟くと、目立つ女が顔を上げた。静香だ。嬲るような目で、嬉しそうに拓を見ている。その向かい側で、綺羅が憐れむように拓を見上げていた。
しまった、と思ったのも後の祭りで、その後散々嫌味を言われてしまった。
なんで気が付かなかったんだろう。
静香も綺羅も嫌いではない。むしろあの独特な性格は、面白くもあり、憧れでもある。
だが、自分を標的に、その個性を発揮するのは止めて欲しい。
しかも、舞の前で。
「一緒に食べようよ」
せっかくの舞の誘いも、その気の毒そうな表情では、拓は情けなくなるばかりだった。
浮かれた気持ちにカウンターパンチを食らって、拓はいたたまれなくなって、敵前逃亡した。
要するに、昼飯を買いに行くと、そそくさとその場を離れたわけだが、そんな拓に貴宏がついて来る。
「よかったな」
舞たちのテーブルから離れて、貴宏がそう切り出した。
「は?何が?」
自然と声が尖る。こいつ、何を見ていたんだ。
「舞、お前のこと、庇ってたじゃん」
拓は足を止めて、貴宏を振り返った。
貴宏の表情は読めない。慰めている風にも見えない。何ということなく拓を見て、淡々としゃべっている。
「あの二人に怒っていたよ、ほら」
舞はスパゲッティを食べていた。
「一緒に食べよう」と言っていたのに、脇目もふらず食べている。隣で、静香がオロオロしていた。
「舞って、感情が高ぶると、口に出す代わりに、食べるよな」
貴宏の言葉に、拓は情けないのか嬉しいのか分からなかった。
まぁ、いいか。
俺の為に舞が怒ってくれた。それは嬉しい。
「俺、カレーにしよう」
貴宏がそう言うので、拓もカレーにすることにした。
カレーの匂いが鼻腔をくすぐり、拓は猛然とお腹がすいてきた。
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