3 チョコ

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 貴宏と拓は、綺羅に医務室に引っ張って来られた。誰もいない医務室の電気をつけ、消毒液を探す綺羅に、「勝手に使っていいのか?」と訊くと、「保健の先生と仲良しなの」という返事が返ってきた。  慣れた手つきで、貴宏の顔の傷を消毒して、テープを貼ってくれた綺羅は、さてさてと貴宏を見た。 「舞を振ったんだってね。それを拓に知られちゃったんでしょ」  拓は少し離れたところにあるベッドに腰掛け、放心していた。 「お前、何でも知ってるな」  半分呆れて、小声で返す。舞と話したのも、つい先ほどだ。  褒めたわけではないのに、綺羅は、ふふん、と得意げに鼻を鳴らした。 「おかげで、拓を止められたでしょ」  止められた、か。  俺は結局、何を望んでいたんだろう。  拓に殴られた時、確かに嬉しかった。  拓が、ここまで降りてきてくれた、と思った。  俺の場所まで。  ぐちゃぐちゃになりながら、嫉妬と劣等感にまみれながら、傷ついて俺を殴った拓を、愛しく思った。  拓に嫉妬されるのがつらくて、舞を振ったのに。  拓を傷つけたくない。それも本心なのに、傷ついた拓に、喜びを感じたのも自分だった。  その拳になら、殴り殺されてもいいと思った。 「駄目だよ」  しゃべってもいないのに、綺羅が厳しく咎めた。 「殴られてもよかったのに、って思ったでしょ」  綺羅は目を眇めて、貴宏をジトッと見る。 「戻れなくなるよ。あんな一方的な茶番、さっさと止めないと」  貴宏が何も言えずに、綺羅を見ていると、奥のベッドで突然拓が呟いた。 「お前ってやっぱり男だったんだな」  綺羅も貴宏も驚いて、拓の方を見ると、拓は殴った右手を擦りながら、うつむいたままだった。 「俺、舞ちゃんが好きだ。本当に欲しいと思ってる」  一方的な茶番。本当にそうだ。拓はどこにも降りてきていないし、何もブレていない。  相変わらず舞を好きで、今度こそ本当に獲りにいく。 「もう貴は関係ない」  貴宏は笑い出したくなった。  俺は自分で、決別のスイッチを押してしまった。拓は巣立ちを決意し、俺の側にいることを拒絶した。  それが怒りから来ているのではないことを感じて、貴宏は絶望した。  もう横にはいない。 「……ああ」  それだけ答えるのが精いっぱいだった。
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