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4 レモン
「食べちゃいたい」
昼食を買いに行く舞の後ろ姿を見ながら、静香が呟いた。姑息にも、うどんの汁をすするふりをして、舞の方を覗いている。
「食べたじゃん、うどん」
綺羅が呆れたように言った。静香が本当に食べたいものを分かっていて、わざと言う。
静香は綺羅の相手をせず、一心に親友の後を目で追っている。
「傷つくなぁ、僕という相手がいながら」
「……」
綺羅は構わず、頬杖をついて静香を眺める。
「報われない恋っていうのは、切なくて美しいね。駄目だよ、友達続けたいんなら、手を出しちゃあ」
静香は、ドンッ、とどんぶりを置いた。綺羅を睨みつける。
「聞こえてるんじゃん」
しれっと綺羅が言うと、静香が憎々し気に言った。
「わざわざそんなこと言うな。お前とはもうしゃべらん」
静香の憎まれ口に、綺羅は楽しそうに笑った。そんな綺羅から、静香は気色悪そうに身を引く。
「なに喜んでるんだよ、マゾか?」
「あれ?もう、しゃべってるよ」
綺羅はフッと短く息を吐いて、「あっ」と何かに気付く。
「ほら、本当の敵が来たよ」
綺羅に言われて、静香もそちらに目をむける。
貴宏と拓の姿が、食堂の入り口に見えた。誰かを探しているのか、食堂を見回している。二人から遠くないところに、舞の姿があった。いくらもたたないうちに、二人は舞を見つけ、拓は声をかけるだろう。もしくは舞が先に気が付くか。
舞が好きな貴宏と、舞を好きな拓。
確かに敵だな。
静香は友人でもある二人の敵を、じっと見据えた。
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