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男は嫌いだった。
特に自分に興味を持っている男は嫌いだ。
それが先天的なものなのか、後天的なものなのか、どっちなのかと思っていると、モデル事務所の先輩が私的な見解を示してくれた。
「静香ちゃんは、小さい頃から大人の男に囲まれているからさ。しかもその男どもは、この子の色気が売れるかどうか見ているわけでしょ。その視線が嫌悪感に繋がっても、しょうがないと思うよ」
そう言った先輩は、十ほど静香より上だったが、静香を可愛がってくれて、そのうちその可愛がりようが性的なものになっても、静香は男に対するような嫌悪感は抱かなかった。
先輩はそのうち売れなくなって、事務所を辞めてしまった。それからは会っていない。
だから結局、静香の性的指向が、先天的なものなのか、後天的なものなのか、静香には分からない。
まぁ、どっちでもいいんだけどね。
静香はその事で気に病んだことはなかった。自分が男を好きになれなくて、可愛い女の子を好きになることに、劣等感も抱いたことはないし、無理やり隠したこともない。
とはいえ、告白のタイミングは慎重に図った。相手を悩ませてはいけないと思ったからだ。
そして、静香のタイミングは大体成功した。女の子たちは、最初は驚くが、すぐに静香を受け入れてくれる。
最初に、この引っ込み思案な、はにかみ屋の女の子を気に入った時、この子はすぐにこっち側に転がりそうだと、思った。
優しい言葉や笑顔を向けると、顔を赤らめながら、嬉しそうにはにかんだ。
その舞は、どうやら貴宏のことを気にしている。更に、拓が舞の事を気に入っている。
目障りだった。貴宏のいちいちに舞が見事にときめいてしまうのも、拓が中学生のように、舞に近づこうと四苦八苦するのを見るのも、忌々しかった。マンガのような、正しい三角関係だ。
しかし、ある時気が付いた。貴宏はどうやら女に興味がないらしい。幼馴染の拓の事ばかり、気にしている。自分との共通点を、たくさん見つけて、静香は合点がいった。貴宏はゲイで、拓のことが好きなのだ。恐らく昔から。
絵に描いたような、不憫で一途な片思いを、静香はせせら笑った。静香が見るに、拓は潔癖な異性愛者だ。同性愛など、言葉は知っているけど、身近に存在するとは夢にも思っていないタイプだ。
望みはないと思うのに、貴宏は諦めきれないらしく、未だに自分がゲイであることも、拓への想いも、隠しているようだった。
不毛だなぁ。しんどいだろうに。
静香はあくまで他人事として、同情していた。
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