1 ハッカ

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1 ハッカ

 レジ打ちをしながら、舞はどうしても売り場の方を気にしてしまう。アルバイトの男の子の姿が現れるたびに、貴宏ではないかと確認してしまうのだ。  大学の講義が終わってから、バイトまでの小一時間、大学内のカフェテリアで一緒だった。しかも、バイト先であるこのスーパーまで、貴宏の車に乗せてもらった。  それでもまだ足りずに姿を探してしまう自分を自覚して、舞は心の中で赤面した。  なぜ、貴宏が気になるのか、舞は自分でも分からない。舞の好みは気さくでよく話してくれる人だ。自分が話をするのが得意ではないので、話題を提供してくれる人がいい。  しかし貴宏はあまりしゃべらない。表情の変化も乏しく、何を考えているか分からない。二人で車の中にいても、貴宏からはしゃべってくれないので、舞は何かと話題を提供しようと苦心する。さんざん悩んで話した結果、貴宏の反応は分かりにくく、舞は勝手に気まずい気分になったりする。  でもなぜか嬉しくなってしまう。  貴宏に「舞」と呼ばれたこと。  拓と綺羅が過激な話をし始めた時、貴宏が舞を気遣って遮ってくれたこと。  マイナーな「チョコ味」のドロップが好きだったこと。  その一つ一つが舞の胸に刻まれていく。  それでも、貴宏のことが好きなのか、と尋ねられると、首を傾げてしまう。これが恋愛感情なのかと自問すると、舞はたちまち自信を無くす。  だって、例えば静香に対してだって、舞は同じようにドキドキしてしまう。 「幸田さーん。レジ閉めしてー」  先輩に呼ばれて、時計を見ると、もう閉店間際だった。 「はーい」  返事をして、レジ閉めの精算にかかる。  時間がたつのが早かった。少しぼうっとしすぎたかな、と反省していると、お金を取りに来た先輩に小突かれた。 「あんまり上の空だと間違えちゃうよ」  あ、バレてた。  スミマセンと小声で謝ると、先輩は笑って言った。 「まぁ、片思いは青春の醍醐味だけどね」 「え?片思いがですか?」  否定することも忘れて、思わず小声で訊き返してしまった。  両想いじゃなくて、片思い? 「そりゃそうだよ。もっと言えば、両想いになる直前ぐらいが一番盛り上がるじゃん。つきあってからは、続けなくちゃいけないでしょ」  そんなものかな?  舞が納得いかない顔をしていると、先輩は「まぁ、がんばんな」と軽い励ましをよこして、去っていってしまった。  貴宏とつきあうねぇ  そこはあまり想像がつかない。  舞は仕事に集中することにした。
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