4 レモン

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「あれー、静香ちゃん、どうしたの?今日は妙に挑発的じゃない?」  静香が中学生の時にモデルの仕事を始めてから、世話になっているカメラマンが、嬉しそうに声を上げた。かなりのボーイソプラノだ。  彼は世間が言うオカマさんで、自分が言うに、正統派ゲイだ。この業界はこの手の人は珍しくない。静香としては、男より信頼できる。  この人に貴宏を紹介したら、速攻喰いつきそうだな。  いざとなったら、生贄に差し出すか。  静香は物騒なことを考えて、カメラを睨みつけた。 「今日、戦闘モードなんで」 「あら、素敵」  途切れなく切られるシャッター音が、静香の体温を上げていった。 「応えられないくせに」  貴宏を呼び出して、舞をちゃんと振れと言った。貴宏は戸惑った顔をして、その後、深い海の底に沈んでいくような、暗い顔になっていった。  まるで自分を見ているようだ。  鏡に映った自分を責めたてているような錯覚に、静香は陥った。  どんどん傷が増えて行く。  放った言葉が、そのまま自分にも返ってきて、静香は貴宏と一緒に溺れている気がした。  貴宏は本当に静香の要求を実行してくれた。  冷静になれば、静香の言い分など、ただの言いがかりにも近い話だが、貴宏は自分がゲイだから舞の気持ちには応えられないことまで、告白していったらしい。  必死の形相で、静香の許にたどり着き、健気にも微笑みながら涙を流す舞の話を、静香はほとんど信じられない気持ちで聞いていた。  拓には絶対に言わない、と貴宏は言っていた。拓は絶対にこちら側には来ないから、失いたくないから、絶対に言わないと。  でも、もはや、知らないのは「拓」だけだ。バレてしまうのは時間の問題だろう。拓だけ知らないなんて、不自然すぎる。  意気地なし。  わたしはあんたとは違う。あきらめないから。  自分がぶつけた言葉が、自分に返って来る。  だって、わたしは怖い。言いたくない。舞とのこの関係を壊したくない。  舞はかすれた声を絞り出すように、訴えた。 「でも、あんなこと言われても、まだ貴宏のことが好きなの」  どんなに傷を負っても。 「絶対に報われないと分かっていても、あきらめきれないのって、馬鹿だと思う?」  舞の目から溢れ出る涙が、自分の為ではないと分かっていても、それを受け止めたいと思ってしまう。 「仕方がないよ」  静香はそっと舞を抱きしめた。 「好きな気持ちは止められないもの」  静香の腕の中で、舞は静香に取り縋り、嗚咽を漏らして泣き始めた。
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