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「あれー、静香ちゃん、どうしたの?今日は妙に挑発的じゃない?」
静香が中学生の時にモデルの仕事を始めてから、世話になっているカメラマンが、嬉しそうに声を上げた。かなりのボーイソプラノだ。
彼は世間が言うオカマさんで、自分が言うに、正統派ゲイだ。この業界はこの手の人は珍しくない。静香としては、男より信頼できる。
この人に貴宏を紹介したら、速攻喰いつきそうだな。
いざとなったら、生贄に差し出すか。
静香は物騒なことを考えて、カメラを睨みつけた。
「今日、戦闘モードなんで」
「あら、素敵」
途切れなく切られるシャッター音が、静香の体温を上げていった。
「応えられないくせに」
貴宏を呼び出して、舞をちゃんと振れと言った。貴宏は戸惑った顔をして、その後、深い海の底に沈んでいくような、暗い顔になっていった。
まるで自分を見ているようだ。
鏡に映った自分を責めたてているような錯覚に、静香は陥った。
どんどん傷が増えて行く。
放った言葉が、そのまま自分にも返ってきて、静香は貴宏と一緒に溺れている気がした。
貴宏は本当に静香の要求を実行してくれた。
冷静になれば、静香の言い分など、ただの言いがかりにも近い話だが、貴宏は自分がゲイだから舞の気持ちには応えられないことまで、告白していったらしい。
必死の形相で、静香の許にたどり着き、健気にも微笑みながら涙を流す舞の話を、静香はほとんど信じられない気持ちで聞いていた。
拓には絶対に言わない、と貴宏は言っていた。拓は絶対にこちら側には来ないから、失いたくないから、絶対に言わないと。
でも、もはや、知らないのは「拓」だけだ。バレてしまうのは時間の問題だろう。拓だけ知らないなんて、不自然すぎる。
意気地なし。
わたしはあんたとは違う。あきらめないから。
自分がぶつけた言葉が、自分に返って来る。
だって、わたしは怖い。言いたくない。舞とのこの関係を壊したくない。
舞はかすれた声を絞り出すように、訴えた。
「でも、あんなこと言われても、まだ貴宏のことが好きなの」
どんなに傷を負っても。
「絶対に報われないと分かっていても、あきらめきれないのって、馬鹿だと思う?」
舞の目から溢れ出る涙が、自分の為ではないと分かっていても、それを受け止めたいと思ってしまう。
「仕方がないよ」
静香はそっと舞を抱きしめた。
「好きな気持ちは止められないもの」
静香の腕の中で、舞は静香に取り縋り、嗚咽を漏らして泣き始めた。
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