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5 ブドウ
静香と舞に声をかけたのは、面白そうだと思ったからだ。
明らかに異質な圧倒的な美人と、普通にどこにでもいる女の子。
ちぐはぐだと思った。
しかも静香は堂々と舞を狙っていて、舞の方は気が付きもしない。舞がおどおどしていながら、静香を何気に振り回している様は、まるでアメリカのコメディのようだ。
舞が席を立った隙に、静香にちょっかいを出すと、まっすぐ怒ってきた。
その姿に、綺羅は生まれて初めて、ぞくりとした。
静香は生気に満ち溢れ、生々しく荒々しかった。自分の強いところも弱いところも、構わず晒してくる。
その生気に揉まれる感覚は新鮮で、不思議なことに不快ではなかった。驚きが過ぎ去ると、綺羅にはそれが心地よいものとなった。
初めのうちは、単純に皆をかき回すと面白かった。学祭の時にみんなで何かしようと言い出したのも、気まぐれに拓や静香をつついてみたのも、それによって四人の関係が微妙に変わっていくのが面白かったからだ。
あくまで傍観者として、もつれ合う四人の関係を楽しんでいた。
それが、いつからだろう。
自分も内側に入ってしまったのは。
気が付くと、舞への恋情に身もだえする静香を引き止めたくなった。こっちを向いてと、言いたくなる瞬間があった。貴宏が傷ついている姿を、自分と重ねて、切なくなる自分がいた。
静香が欲しい。
でも触らない。
僕が触ると、汚れてしまう。
そんなの、僕が嫌だ。
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