9人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで?俺をこの部屋に入れてくれたわけは?」
貴宏は物珍しそうに、綺羅の部屋を見回している。
あの後、拓と貴宏を医務室に連れて行き、拓が帰った後、綺羅は抜け殻のようになった貴宏を、家に連れて帰った。
自分でもなぜか分からない。
他人を上げることを厭った挙句、鍵を大量に付けた部屋に、なぜ貴宏を連れて帰ってしまったのか。
だけど、放っておけなかった。
自分と同じような目をした貴宏を、あのまま放置していれば、僕が救われない。
「いや、可哀そうだったから」
取ってつけたように綺羅がそう言うと、貴宏は鼻を鳴らした。
「誰も入らせてもらえないって、もっぱらの噂だけど?」
「静香は何度か来てるよ」
「……静香だけね」
「違うよ、そういう関係じゃないからね」
綺羅が慌てると、貴宏は面倒くさそうに即答した。
「そりゃ、そうだろ」
なぜか、綺羅はグッと詰まる。
そんな綺羅を見て、貴宏が片眉を上げた。
「お前、誰にも興味がないかと思っていたけど……静香の事が好きだったのか」
「は?そういう関係じゃないって、今言ったじゃん」
「ムキになりすぎ。綺羅らしくない」
綺羅はまたグッと詰まり、貴宏を睨みつけた。
「本当にそんなんじゃないよ。だいたい、僕じゃあ、静香の相手は出来ないって、貴宏は知ってるでしょ」
貴宏は肩をすくめた。
「お前の身体が男だからか」
「拓ちゃんにもばれちゃってたね」
「俺たち二人を無理やり引っ張って、医務室連れて行ったからな。それはちょっと女性にはできん」
綺羅は頭を掻いて、「まいったなぁ」と呟いた。
「静香には言わないでね」
懇願するようにそう言うと、貴宏は目を丸くし、声を上げて笑い出した。
「そりゃ、お前。静香の事があきらめられないって、言ってるようなもんだぞ」
そのまま、何がそんなに面白いのか、発作が起きたように笑い続けた。
なんだよ、元気じゃないか。
綺羅は不貞腐れ、ベッドに腰掛ける。
「貴宏が酷い顔してたから、心配でさ。僕でよければ、慰めてあげようと思ったんだよ」
貴宏は笑うのを止め、妙に優しい目で綺羅を見た。色っぽいその目に、モテるのも頷けると綺羅は思う。
「慰めるって、お前、出来るの?」
貴宏が挑発するように言うので、綺羅も笑って返してやった。
「どっちもイケるっていうのも、本当だよ」
身体はどっちもイケる。心は誰にもイケない。
貴宏はベッドに近寄ると、グイッと綺羅をベッドの上に引き倒した。
「じゃあ、慰めてもらおうかな」
お互い、心は違うところにあった。
だけど、同じような想いを淵に積もらせてしまった二人は、肌を合わせ、悦びに沈んでいくことで、積もったものが少しだけ、削られ、底に沈んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!