5 ブドウ

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「それで?俺をこの部屋に入れてくれたわけは?」  貴宏は物珍しそうに、綺羅の部屋を見回している。  あの後、拓と貴宏を医務室に連れて行き、拓が帰った後、綺羅は抜け殻のようになった貴宏を、家に連れて帰った。  自分でもなぜか分からない。  他人を上げることを厭った挙句、鍵を大量に付けた部屋に、なぜ貴宏を連れて帰ってしまったのか。  だけど、放っておけなかった。  自分と同じような目をした貴宏を、あのまま放置していれば、僕が救われない。 「いや、可哀そうだったから」  取ってつけたように綺羅がそう言うと、貴宏は鼻を鳴らした。 「誰も入らせてもらえないって、もっぱらの噂だけど?」 「静香は何度か来てるよ」 「……静香だけね」 「違うよ、そういう関係じゃないからね」  綺羅が慌てると、貴宏は面倒くさそうに即答した。 「そりゃ、そうだろ」  なぜか、綺羅はグッと詰まる。  そんな綺羅を見て、貴宏が片眉を上げた。 「お前、誰にも興味がないかと思っていたけど……静香の事が好きだったのか」 「は?そういう関係じゃないって、今言ったじゃん」 「ムキになりすぎ。綺羅らしくない」  綺羅はまたグッと詰まり、貴宏を睨みつけた。 「本当にそんなんじゃないよ。だいたい、僕じゃあ、静香の相手は出来ないって、貴宏は知ってるでしょ」  貴宏は肩をすくめた。 「お前の身体が男だからか」 「拓ちゃんにもばれちゃってたね」 「俺たち二人を無理やり引っ張って、医務室連れて行ったからな。それはちょっと女性にはできん」  綺羅は頭を掻いて、「まいったなぁ」と呟いた。 「静香には言わないでね」  懇願するようにそう言うと、貴宏は目を丸くし、声を上げて笑い出した。 「そりゃ、お前。静香の事があきらめられないって、言ってるようなもんだぞ」  そのまま、何がそんなに面白いのか、発作が起きたように笑い続けた。  なんだよ、元気じゃないか。  綺羅は不貞腐れ、ベッドに腰掛ける。 「貴宏が酷い顔してたから、心配でさ。僕でよければ、慰めてあげようと思ったんだよ」  貴宏は笑うのを止め、妙に優しい目で綺羅を見た。色っぽいその目に、モテるのも頷けると綺羅は思う。 「慰めるって、お前、出来るの?」  貴宏が挑発するように言うので、綺羅も笑って返してやった。 「どっちもイケるっていうのも、本当だよ」  身体はどっちもイケる。心は誰にもイケない。  貴宏はベッドに近寄ると、グイッと綺羅をベッドの上に引き倒した。 「じゃあ、慰めてもらおうかな」  お互い、心は違うところにあった。  だけど、同じような想いを淵に積もらせてしまった二人は、肌を合わせ、悦びに沈んでいくことで、積もったものが少しだけ、削られ、底に沈んでいった。
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