1 ハッカ

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「いいじゃん、それ」  拓はカツカレーを頬張りながら、何度も綺羅に向かって頷いた。 「食べながら、しゃべらないでよ。汚いなぁ」  静香が心底嫌そうな顔をして、拓から体を離した。 「ごめんごめん」と言いながら、拓はもう次のカツを口に放り込んでいる。先ほどの傷心はどこへやら、すっかり立ち直っている。  舞は拓の立ち直りの早さに呆れながらも、うらやましくもあった。自分ではそうはいかない。きっと、いつまでもウジウジ悩んでいるだろう。 「俺たち、公式では何のグループでもないけど、出せるのか?」  貴宏もカレーだ。だがカツはのっていない。  貴宏の当然の疑問に、綺羅は頷いた。 「別に大学の学生サークルに登録していなくても、大丈夫。要は、出店グループの欄に、名前が書ければいいわけ」  綺羅の提案は、二ヵ月後にある大学祭で、このメンバーで店を出さないかということだった。 「こうやって、話をするだけでも楽しいけどさ、なんか皆でやってみるのもいいなって」 「へぇ」  その貴宏の口調に、舞をはじめ、皆が思わず彼の顔を見た。万事において、貴宏の熱量は低い。クールだと言えば聞こえがいいが、冷たい印象を与える。だが、その時の「へぇ」は興味を引かれているように響いた。 「珍しいね。拓ならともかく、貴宏がそんなに喰いつくなんて」  静香が代表して感想を述べると、貴宏はフッと我に返ったように、いつもの表情に戻った。 「いや、まぁ、嫌いじゃない」  それを聞いて、拓がブッとふきだした。 「そう言えばお前、文化祭とか、なんだかんだ熱心にやってたよな。いつも最後まで残っていたし」  貴宏は拓を見つめると、頷いた。 「うん、そういうの割と好きだ」  舞はスパゲッティを口に運びながら、鼻がムズムズしていた。こんなに可愛い貴宏は、大発見だ。  貴宏は何事もなかったかのように、カレーを食べている。もうすぐ貴宏も拓も食べ終わる。舞の予想通り、舞が先に食べ始めていても、あっさり二人に追い抜かれてしまった。 「いいじゃん、やろうよ」  舞はフォークを握ったまま、綺羅に言った。  綺羅は驚いたように舞を見ると、口元を指さした。 「口の周り、赤いよ」  舞は紙ナフキンで口の周りを拭うと、フォークを置いて、もう一度言った。 「わたしもやりたい」 「分かった、分かった」  綺羅は舞と貴宏を見比べ、笑いながら頷いた。 「分かりやすいね、舞ちゃんは」  隣では静香が、なぜか顔も上げずにスマホをいじっていた。  舞は心配になって、静香を覗きこむ。 「静香は?やりたくない?」 ノロノロと静香は顔を上げた。その唇が、何となく尖っている。 「いや、やるよ」  その顔がどうにもやりたそうな顔ではなかったので、舞はもう一度確認した。 「本当に?やりたくないなら、無理には……」 「やるよ!」  静香は噛みつくように答える。舞は驚いて、目を丸くした。  向かい側で綺羅がため息をつきながら、呟いた。 「……子どもじゃないんだから…」
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