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「いいじゃん、それ」
拓はカツカレーを頬張りながら、何度も綺羅に向かって頷いた。
「食べながら、しゃべらないでよ。汚いなぁ」
静香が心底嫌そうな顔をして、拓から体を離した。
「ごめんごめん」と言いながら、拓はもう次のカツを口に放り込んでいる。先ほどの傷心はどこへやら、すっかり立ち直っている。
舞は拓の立ち直りの早さに呆れながらも、うらやましくもあった。自分ではそうはいかない。きっと、いつまでもウジウジ悩んでいるだろう。
「俺たち、公式では何のグループでもないけど、出せるのか?」
貴宏もカレーだ。だがカツはのっていない。
貴宏の当然の疑問に、綺羅は頷いた。
「別に大学の学生サークルに登録していなくても、大丈夫。要は、出店グループの欄に、名前が書ければいいわけ」
綺羅の提案は、二ヵ月後にある大学祭で、このメンバーで店を出さないかということだった。
「こうやって、話をするだけでも楽しいけどさ、なんか皆でやってみるのもいいなって」
「へぇ」
その貴宏の口調に、舞をはじめ、皆が思わず彼の顔を見た。万事において、貴宏の熱量は低い。クールだと言えば聞こえがいいが、冷たい印象を与える。だが、その時の「へぇ」は興味を引かれているように響いた。
「珍しいね。拓ならともかく、貴宏がそんなに喰いつくなんて」
静香が代表して感想を述べると、貴宏はフッと我に返ったように、いつもの表情に戻った。
「いや、まぁ、嫌いじゃない」
それを聞いて、拓がブッとふきだした。
「そう言えばお前、文化祭とか、なんだかんだ熱心にやってたよな。いつも最後まで残っていたし」
貴宏は拓を見つめると、頷いた。
「うん、そういうの割と好きだ」
舞はスパゲッティを口に運びながら、鼻がムズムズしていた。こんなに可愛い貴宏は、大発見だ。
貴宏は何事もなかったかのように、カレーを食べている。もうすぐ貴宏も拓も食べ終わる。舞の予想通り、舞が先に食べ始めていても、あっさり二人に追い抜かれてしまった。
「いいじゃん、やろうよ」
舞はフォークを握ったまま、綺羅に言った。
綺羅は驚いたように舞を見ると、口元を指さした。
「口の周り、赤いよ」
舞は紙ナフキンで口の周りを拭うと、フォークを置いて、もう一度言った。
「わたしもやりたい」
「分かった、分かった」
綺羅は舞と貴宏を見比べ、笑いながら頷いた。
「分かりやすいね、舞ちゃんは」
隣では静香が、なぜか顔も上げずにスマホをいじっていた。
舞は心配になって、静香を覗きこむ。
「静香は?やりたくない?」
ノロノロと静香は顔を上げた。その唇が、何となく尖っている。
「いや、やるよ」
その顔がどうにもやりたそうな顔ではなかったので、舞はもう一度確認した。
「本当に?やりたくないなら、無理には……」
「やるよ!」
静香は噛みつくように答える。舞は驚いて、目を丸くした。
向かい側で綺羅がため息をつきながら、呟いた。
「……子どもじゃないんだから…」
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