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「ねぇねぇ、舞はどれが好き?」
静香が細くて長い指を振ると、缶はカラカラ音をたてて、ドロップを吐き出した。
広げたペーパーナプキンの上に、コロコロとドロップが転がり出てくる。
「俺はねぇ、パイン」
舞の横に座っていた拓が、一番にそう言うと、黄色い粒を口に放り込んだ。静香はフンと鼻を鳴らす。
「意外性のない男だね、拓は」
「はぁ?そういう、静香はどれがいいのさ」
突っかかる拓を、手を振って追い返し、静香はうすい色の粒をつまんだ。その景色だけで美しく、舞はほおっと見とれた。
「なに?ハッカ?」
拓が眉をひそめると、綺羅がくすくす笑った。
「拓ちゃんハッカはこれだよ。もっと白い。今のはレモン」
「正解」
静香がすました顔で口に含んだ。
「なんだよ。静香だって、意外性ないじゃん」
そう言って不機嫌になる拓を、まぁまぁと宥めて、綺羅は紫の粒を指で押さえた。
「僕はこれかな。ぶどう味」
「普通だな」
拓がそう評するのを、綺羅は「だね」と笑って食べる。すぐにカリッという音をたてて、かみ砕いてしまった。
「普通が一番だよ」
笑うとますます男か女か分からない顔になる。
「お前は?」
拓は少し離れたところに座っている、幼馴染の貴宏に声をかけた。貴宏と拓は幼稚園から大学まで、ずっと一緒だという。
貴宏は読んでいた本から顔を上げると、短く答えた。
「チョコ」
「チョコ⁉」
拓は素っ頓狂な声を上げた。ドロップの中から、茶色い粒をつまむ。
「これか?これ、チョコ味だったんだ」
貴宏に差し出すと、貴宏は何も言わずに口に入れた。
「えー、意外。チョコ味って微妙じゃない?チョコ食べたほうがいいじゃんって」
「うるさい」
静香の感想に、貴宏はぴしゃりと言い、また本に目を落とした。
「ねぇ?」と静香は舞に同意を求める。舞は「そうかな?」と答えを濁した。舞もチョコ味は嫌いじゃない。
「で、舞はどれが好きなの?」
「舞ちゃんは、いちごでしょ」
拓が寄ってきて、楽しそうに尋ねる。
舞は目だけで笑って、すばやく一粒ドロップを口に放り込んだ。
小さくてふわふわしている舞ちゃんは、いちご味が似合う。
そういう勝手な偏見を顔に張り付けたまま、拓は舞の口元を凝視する。
舞の背が標準より低く、小柄なのは事実だが、舞はふわふわ可愛いものが特別好きなわけではない。
スゥッと独特な香りが、拓の鼻に届いた。
「残念。実はハッカ」
舞は少しうんざりしたように、拓に告げた。
「ハッカー⁈」
拓はハッカが嫌いなのだろう。思わずゲッと言った顔になる。
静香がアハハと声を上げて笑った。
静香、綺羅、拓、貴宏、そして舞は、大学の必修科目で同じクラスの仲だ。学部学科はバラバラだが、たまたま週に三時間あるこの科目のクラスで一緒になり、なぜか仲良くなった。静香と舞は席順が前後で、静香が舞に声をかけてきた。二人で話していると、綺羅が話に入ってきた。その後のランチで、三人で食べていると、隣の席に拓と貴宏が来たのだ。
静香と綺羅は大学内でも有名人だ。静香は背が高く、超がつくほど美人で、長く美しい黒髪の持ち主だ。モデルの仕事もしている。
綺羅は、男か女か。見ただけでは分からない。しゃべっても分からない。もちろん、誰かが綺羅と寝たとしたら分かるだろうが、構内の誰も綺羅が男か女か明言できる者はいなかった。
髪は金髪で短くしているが、何となく体の線が細い気がする。胸はないが、ぴったりした服を着ないので、よく分からない。歩き方はまっすぐで、優美だ。トイレは女子に入るが、単に個室だからかもしれない。自分のことを「僕」というが、だからといって「男」だという確証はない。それとなく誰かが尋ねても、「さぁどうかな」と躱されてしまう。
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