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第2話 サンマー麺
サンマー麺
3時間も峠をバイクで飛ばすと身体は冷え込み、途中馴染みの茶屋に寄る。
しっかり味付けた肉とたっぷりの野菜はシャキッと手早く炒め醬油味のトロミをつけるサンマー麺。
身体の大きな店主が厨房から無愛想に差し出したサンマー麺は麺が汁によく絡み死ぬほど美味い。
その後は店を閉めた店主と俺とのトロトロのお楽しみの時間だ。
Reunite
That was four years ago
担任だったあの人が学校を辞めたを知ったのは、
ボーナスが上乗せされた年の瀬はもう直ぐという給料日。
同期が集まり半期に一度受け取るまとまった金額に、
公に飲める様になったアルコールで乾杯と焼き鳥屋に蹴り出した夜。
ビールの後の慣れない強い酒に一人二人と潰れる奴が出てきた頃合いで、
ちょうど、
高専でクラスが一緒だった麻木が酔って絡み酒の出始めた席を避けて、
比較的まだ意識もまともな俺の隣に座ったからだった。
「 由川先生、辞めたってよ 」
「 辞めたの? 学校を? 」
「 おう、俺弟が同じとこ入ったからさ、
何となく話は伝わってくんのよ 」
「 理由…… 」
「 あぁ、なんか店をやるとか何とか、
いや、継ぐだったかな?
なんかそんな理由だよ 」
「 店? 」
それから、俺は人伝を頼りあの人のその先を聞き込んだ。
そして桜の頃、
あの人は父親のやってた峠の食堂を継いだ、ということまではわかった。
どうする?行く?
行ってみる?
高専時代には乗るなと言われて、
心配かけどおして、
散々怒られた由縁のバイクも今や堂々と毎日の通勤に使っている。
あの頃、無口だったあの人は、
真剣に俺の身体を心配してくれて、
親に捨てられてた俺にはあの人しか居なくて……
でも、あの人には奥さんがいて、
そうだとしても、
諦められなくて……
卒業式の後、呼び出した先に来てくれたのが最後に会った日。
俺の思いは受け取れないって、
そのたった一行の言葉にも口籠もり、
困った顔で謝った姿が、
悔しくて哀しくて、、
心配して怒ってくれたその時のバイクを乗り換える事はできなかった。
大切にしてたのに。
去年の台風の時、俺のアパートが浸水して、家の前に停車していたバイクは廃車になった。
今乗ってるのは、
でも、その同じバイクの中古を探してやっと買ったんだ。
今でも、引きずってるんだな……俺。
それから、3ヶ月ほど経ったある休日。
何気なくつけたテレビは旅情報のコーナー。
騒がしいアイドルが、
『 サンマー麺のは横浜の名物なんですけどー
実はー〇〇峠にも、ほんと美味しいサンマー麺が~ 』
その〇〇峠に引っかかった俺はそれまで何となく眺めていたテレビ画面に真剣に目をやった。
『 この七曲の途中の茶屋のサンマー麺がまじ美味しいんですよ〜 』
とテレビ画面に映されたのは、湯気が上がったラーメン丼と、
この肩と横顔……先生……
気がついたら俺はバイクに飛び乗ってた。
梅雨は開けたと言いながらと、
今にも振り出しそうな空を従えて俺はとにかく国道を走った。
山の上りに入り、後二曲がりで七曲の終点のカーブ、
僅かに建物が見えたのは、
店の先に出した幟(ノボリ)が吹き出した風に煽られていたから。
その、幟に、店の名前が見えた。
由、、、えっ、由て
先生の名?
それとも、それとも、
俺の 名前?
俺の名前は 刈田 由 ゆう
先生の苗字と一字同じ字。
出会った頃はお前は よし か ゆうか?と何回も聞かれたこの字。
峠の茶屋の名前は、
よし、?
ゆう、なの?
な、、、、
わけないか……
濡れた身体で茶屋の前の砂利を敷いた駐車場にバイクを止める。
カッパも着ずにすっかりびしょ濡れの身体で入るわけにもいかず、
せめて軒下を借りようと雨宿りをする。
その時、ガラリと店の戸が開いた。
「 お客さん、そんな所に立ってないで、入ったら 」
その懐かしい声に俺は俯けた顔が上げられなかった。
「 お前…………
ゆうか 」
浅ましい心が見えたらと、
恥ずかしさで真っ赤になった顔は心臓まで動悸させ、ろくに返事もできない俺。
「 来てくれたんだな、ゆう 」
懐かしさと少しの哀しさと、後悔と、
それでも名前を呼んでくれた嬉しさを、
いつまでも降り続ける雨は覆ってくれた。
再会は雨の中で、
そして震えの止まらない箸で手繰った、
あの人の作ったサンマー麺の味は。
愛した人を諦められなかった俺の胸の中に染み渡った。
ミニコメ嬉しい😆です……
あの流れていくコメントに元気が湧く💪💪💪
初々しい♡たどたどしい駆け引きのその先
→当分は……
朝しらす丼を一緒に食べる‼️
お茶を入れてあげる
歯ブラシが洗面所に二本
からw
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