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*前作Mr.レインドロップ《執筆応援用短編》「触れて、未来」以降のお話です*
小さな四角い額縁の中を夜のネオンが流れ星のように後ろへ飛んでいく。やっと温もりと感覚を取り戻した指先はじんじんと痺れる程痛い。
前の助手席から飛んでくるそれは恨み辛みなのか、罵声なのか。もはやただの悪口としか思えない鮫島の小言を左から右へと聞き流しながら僕は、毛布に包まれ疲れ切って眠る彼女の横顔ばかりを眺めていた。
綺麗な膝小僧に痛々しい生傷をつけて。泣きじゃくった目の周りが真っ赤に腫れていて。
全て僕のためにつけた傷。見ているだけで痛々しいのになぜか腹の底が甘くざわつくなんて、僕は狂ってるんだろうか。
握った手のひらは思ったより小さくて細くて、ギターしか閉じ込めたことのない僕の手のひらに今、確かに大切なものが握られている感覚があった。
それと同時に、必死に絡んできた彼女の小さな舌の感触を思い出す。
自分ですら知らなかった空っぽの部分が満たされていく。そして、ふと気づいた。
僕はまともな恋愛なんて、今まで一つもしたことがなかった。
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