You're My Only Shinin' Star.

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 守屋の視線を切るように、ヨシトは無理やり話を戻した。 「でも営業から開発への異動って、珍しいですよね?」 「ああ、ほんとは最初から開発志望だったんだけどな。最初は営業やっといて損はないって配属されたけど、なかなか動かしてくれへんから、めっちゃ頑張った」  はあ、と曖昧に頷くと、真顔になった守屋はマグロ納豆をつつきながら言う。 「選手の経験値は売るとして、それ以外にもちゃんと出来てないととは思ったな。理系とか、専門課程の連中と同じ土俵は無理やから」  ということで、ちゃんと本を読めと蒸し返され、再び平謝りのヨシトである。 「それでも開発が良かったんですか…? 広報とかじゃなくて」  広報は花形部署だ。CMやイベントの企画も多く、守屋のように業界に顔が利き、関係者がいるなら、むしろそちらの方が良かったのでは? と思ってそう問うと、 「どうかな。てか、ヤナギはともかく、他のはもうちょい成績出さないと広告に使えねえ」 「あははは、手厳しいねえ。コバちゃん、まだ柳澤君にも追いつけてへんからな」  朗らかといえる店主の談に、まだ桁が同じだけマシっすね、とちょっと顔をしかめる守屋の傍らで、ヨシトはスマフォをいじってこの試合の情報を確認する。  ただ、と、そこでほとんど囁くように、彼は。 「…うちの製品を」  俺が関わったものを、ひとつでも使ってくれれば。ひとつでも。きっと、そうしたら、 「一緒に、」  やはり仄かに、彼は笑んだ。   きっと 夢を見る   彼 のワインドアップに合わせて高揚するダイヤモンド   もう、その後ろを守る日は来なくても  守屋さん、とヨシトが声を上げる直前。 「あ、いった」 「いったな!」  慌ててテレビに視線を戻せば、白球がライトスタンドに飛び込んでいくところだった。その数秒の間に、それほど大きくない液晶画面全体が大きく揺れて、粟立つのが解った。リアルな音は聞こえないが、球場全体が弾けるような歓喜に包まれている。 「っよっしゃー!!」 「まっちゃん、ようやった!」 「ああもう、遅いで、まっちゃん!」  7回裏、起死回生のスリーランホームランに、店主と守屋がハイタッチしている。  ダイヤモンドをゆっくり回った三塁手がホームベースを踏むまで、スタジアムが鳴動していた。チームメイトに手荒な歓待を受けた三塁手は、最後に先発投手と抱き合った。  そうして迎えた9回表、リリーフに万感の祈りを載せる。 「コバちゃんのひと月ぶりの白星、頼むで!」 「ケント、結婚式のご祝儀、ここで返せ!」 「えっ、ハルさんそれひどい、ってか野球関係ない」  店員まで一緒になって業務を中断し、テレビ画面に釘付けだ。お客さんたちも慣れっこなのか、もう9回か、とか、いま何ゲーム差? などと話している。  そんな中、大柄なサイドスローが投じる白球にくるくると簡単にバットが空を切って、あっという間にカウントが進む。  そこだ、と守屋が低く呟いた。「え、なんですか?」とヨシトが聞き返す間もなく、 「スライダー!!」  何人かの声が重なって、27個のアウトが積み重なった。  ゲームセット。  クローザのガッツポーズは、店主が邪魔でヨシトには見えなかった。
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