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そうしてヨシトの横で勝手に話は進み、プレゼンの日、守屋の端正な姿が客先に現れた。
こういうことは先週言って下さいよと笑いながら、形のいい眉を顰める守屋を、新村まあまあといなした。
「忙しいとこ悪いねえ、でも少しでも印象良くしないとさ」
「俺なんて履かせる下駄にもなりませんよ、もう大昔の話で」
「ご謙遜を。宮地本部長、○○のシーズンシート持ってるらしいよ?」
「ガチですねえ。行く暇あるのかな」
「それがノー残業デー、率先してるって」
「あー、上司としては良いかなあ。ん? でもあいついま、水曜日じゃないですよね」
「そうそう、だから登板に合わせて日程設定するって噂があるよ」
「それはちょっとどうだろう…」
引き続き、まったく話が見えないヨシトは諾々と後ろについて歩く。ただ守屋に自己紹介すると、「サッカーの子だよな」と覚えてもらっていたことだけが救いだった。
180センチちょっとあるヨシトから見ると、守屋は手のひらひとつ分くらい目線が下だ。しかしあの脚力… ついヨシトの口からため息がこぼれた。
そのまま通された会議室で両担当者挨拶をしていると、件の宮地本部長が現れた。
「守屋君、久しぶりだなあ! どう、調子は」
満面の笑みを浮かべ、ほとんどハグでもしかねない勢いで守屋の両手をとると、ぶんぶんと振った。
「ご無沙汰しております。いまは開発なのでこちらに伺う機会もなくて」
「もったいないね。いつでも戻ってくれて良いんだよ」
「ありがとうございます」
愛想良く微笑む守屋の言葉も終わらないうちに、宮地本部長は身を乗り出した。
「で、最近はどうなの、みんなで集まってたりするの?」
「いえ、3月に岡の結婚式で会ったきりですね」
「えっ、岡くん、結婚したの?!」
顧客というより、ほとんど親戚のおいちゃんのような本部長の口撃を、上手にほどほどで切り上げる守屋を伺いながら、ヨシトが内心、いったいどういうことだろうと傾げた首は元に戻らなかった。
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