You're My Only Shinin' Star.

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 そうしてヨシトの横で勝手に話は進み、プレゼンの日、守屋の端正な姿が客先に現れた。  こういうことは先週言って下さいよと笑いながら、形のいい眉を顰める守屋を、新村まあまあといなした。 「忙しいとこ悪いねえ、でも少しでも印象良くしないとさ」 「俺なんて履かせる下駄にもなりませんよ、もう大昔の話で」 「ご謙遜を。宮地本部長、○○のシーズンシート持ってるらしいよ?」 「ガチですねえ。行く暇あるのかな」 「それがノー残業デー、率先してるって」 「あー、上司としては良いかなあ。ん? でもあいついま、水曜日じゃないですよね」 「そうそう、だから登板に合わせて日程設定するって噂があるよ」 「それはちょっとどうだろう…」  引き続き、まったく話が見えないヨシトは諾々と後ろについて歩く。ただ守屋に自己紹介すると、「サッカーの子だよな」と覚えてもらっていたことだけが救いだった。  180センチちょっとあるヨシトから見ると、守屋は手のひらひとつ分くらい目線が下だ。しかしあの脚力… ついヨシトの口からため息がこぼれた。  そのまま通された会議室で両担当者挨拶をしていると、件の宮地本部長が現れた。 「守屋君、久しぶりだなあ! どう、調子は」  満面の笑みを浮かべ、ほとんどハグでもしかねない勢いで守屋の両手をとると、ぶんぶんと振った。 「ご無沙汰しております。いまは開発なのでこちらに伺う機会もなくて」 「もったいないね。いつでも戻ってくれて良いんだよ」 「ありがとうございます」  愛想良く微笑む守屋の言葉も終わらないうちに、宮地本部長は身を乗り出した。 「で、最近はどうなの、みんなで集まってたりするの?」 「いえ、3月に岡の結婚式で会ったきりですね」 「えっ、岡くん、結婚したの?!」  顧客というより、ほとんど親戚のおいちゃんのような本部長の口撃を、上手にほどほどで切り上げる守屋を伺いながら、ヨシトが内心、いったいどういうことだろうと傾げた首は元に戻らなかった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加