35人が本棚に入れています
本棚に追加
守屋のおかげだけでもあるまいが、プレゼンの感触は良好だった。
質疑応答にもそつなく対応し、このまま神奈川の研究所に寄ると言う守屋とはそこで別れる。何度も深々とお辞儀をするヨシトに、じゃあ頑張れよと声を掛け、守屋は身を翻した。
後ろ姿を見送るヨシトの口からついついこぼれるのは、
「カッコいいッスね」
「カッコいいよねえ」
真剣に同意する新村に、やっと問い糾した。
「守屋さん、宮地本部長とどういう関係なんですか!」
「関係っていうか、守屋君ね、君が入社する前はうちのエースだったんだよ」
「ええっ?!」
でもずっと異動希望出してて。広報にって話もあったけど、どうしても開発がいいって、と新村が語るむかし話はもちろん初耳だった。
開発から営業への移動はあるが、逆はめったにない。しかも新村がエースというなら相応に好成績だったのだろう。それでも異動… と呟くヨシトに、新村は更に衝撃的なことを言った。
「でもね、宮地本部長にとってはたぶん、守屋君はまだ高校球児なんだよ」
「…はっ?」
こうこうきゅうじ? と目を丸くするヨシトに、新村は静かに微笑んだ。
「性格的に本人は言わないだろうけど、守屋君、高校のとき野球部で、全国制覇してるんだよね」
「ぜんこくせいは… って、野球ならつまり、甲子園、とか」
「それそれ、夏の甲子園。何年前かなあ… 村上君、いま何年目だっけ? あ、そう、じゃあ10年くらい前なのか」
守屋の年齢を考えればそうなる。新村は頷きながら、
「覚えてないかなあ? △△△、超高校生級の左右の二枚看板って話題になって… 無理か、中学生だもんねえ」
高校名ならさすがに知っている、スポーツ名門校だ。出身のプロ選手も何人も居たはずで、はあ、と頷くヨシトだが、やはりまったく記憶にはなかった。なにせサッカー部だし。それに、守屋の佇まいとヨシトの球児イメージはまったくかすらなかった。
「宮地本部長、あの高校のファンでね。特のあの代は記録的だったからねえ、エースは両方プロ入りしたし、他にも居たんじゃないかな。守屋君は外野手だったかな、すごく活躍したらしいんだけど」
「えっ、じゃあ、守屋さんもプロ、とか…」
「大学までやってたみたいだけどね、どうだったんだろ」
そんな話をするうち、あっという間にオフィスに辿り着き、結局、そのまま立ち消えになってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!