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手が空くまでちょっと待って、と返信が来た。
メールに添付しますかと訊くと、
「休憩がてら見るからプリントアウトしといて」
と言われた。ヨシトが指定された時間に休憩室も兼ねたラウンジで待っていると、ほどなくラフな格好の守屋がやってきた。
「悪いね、待たせて。あ、もし時間がないならあとで持っていくけど」
「いえ、大丈夫です!」
すぐ見るから、と言いながら、自販機前に立った守屋は思いついたように振り返る。
「村上君もなにか飲む?」
「あ、すみません。じゃあ、コーヒーで」
コーヒー代を出そうとすると、守屋が当たり前に「いいよ」と断るのでそれ以上は押せず、ヨシトは恐縮しつつカップを受け取る。よっと、軽い身のこなしで座った守屋はヨシトから受け取った打ち出しにざっと目を通す。
「新村さんも部長たちも気軽に振るよなあ、ほんと。せめてもうちょっと早く…」
と、ぼやきは途中で途切れた。ん? とヨシトが様子を窺うと、守屋の眉間に皺が寄っていた。どうかしましたかと、尋ねる前に、
「村上君、きみ、活字読む人?」
訊かれた。
「い、いえ、あまり…」
「Webの雑誌とか新聞も?」
「すすすす、すみません…」
そうか、と低い声で受けた守屋は、手に持った赤ペンでガツガツと添削をはじめた。
で、二十分後。
「直したらもっかい持って来い」
キリリと厳命され、カクカクと頷くしかないヨシトである。若干、守屋の口調も厳しい。真っ赤になったアウトプットを眺めつつ、穴があったら入りたい気持ちでいると、小さく息を吐いて守屋は言う。
「まあ、根本的な抜けとかもれはないから。ちょっと表現とか言い回しは赤入れてみたけど、頭使って考えて、修正が必要だと思ったところは直せ。ちゃんと自分で読み返せよ」
「ハイッ」
また軽やかに立ち上がりながら、守屋は言う。
「たかが議事録だけど、基本、仕事って文章が書けることが前提のもんだから。基礎練はやっとけ」
そうして、ヨシトは背中越しに手を振る守屋を見送った。
恥ずかしくはあったが、少し嬉しくなっている自分もいて、ちょっとヤバいなと思うヨシトだった。
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