lesson2 彼女が泣いたら

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lesson2 彼女が泣いたら

会社のすぐ前にある百貨店の、仕掛け時計が、賑やかしくエレクトリカルパレードの音楽を奏でた。 正午だ。 袖机からパンを出し、“あ~ん”と口を開けたところで、背後から肩を叩かれた。 「おい」 「ふご?」  「“ふご?”じゃねえ、昼だ。飯行くぞ」 あ、そうだ。 契約は今日からはじまっているんだ。 土居さんがパンをくわえたままの私を椅子からつまみ上げると、課内が俄にざわついた。 スタスタと前をいく彼の後を少し離れて追いかけていると、ハタと彼が急停止する。 「わっぷ」  彼の背中に突っ込む私。 「コラ!急に…」 「そうか」 ワタシの抗議をよそに、彼はひとり、得心したように手を打った。 そうして私の左手をとる。 「手」 「ななな、なにを??」   口をパクパクする私を彼はそのまま引っ張りはじめる。 擦れ違う人が、振り返ってギョッと見る。 「“ソクド”合わせなきゃな。昨日習ったんだった」 ドキン。 振り返って無邪気に微笑む土井さんに、思わず鼓動が大きく鳴った。 「ば、ばかやめろっ、 ダメーーーーーッッ!!」   我に返り、慌てて右手を振り払う。 彼が不思議そうな顔をした。
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