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「そのヒト、あんまり信じない方がいいと思いますよ」
「は?」
キョトンとして男を見上げる土井。
私は、その後のやりとりを知ることが出来なかった。
「……っ!」
何故なら、その言葉が聞こえた途端、私は椅子を立ちあがり、走り出していたから。
走った。
食堂のテーブルの間をすり抜け、隅っこ窓側の非常口を出、螺旋の非常階段を。
それでも、
彼らの侮蔑の笑い声や罵声は、どこまでもどこまでも追いかけてくる_____
それを振り切ろうとして、私は懸命に階段を降りる…
12階の食堂から一気に駆けた私は、裏の緑地帯の陰に隠れ、胸を押さえて息継ぎをした。
ああ、なんて迂闊な。
つい忘れていた。
自分が人の集う場所を、極力避けていたコトを。
心を揺さぶられないように、自分をガードしていたコトを。
頬を熱い滴が伝う。
嗚咽が込み上げる。
とっくに閉じた筈の傷口が、再び誰かにこじ開けられる、そんな気がした。
「…うえぇ……ぇぅ…」
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