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「…そうか、分かった!」
その瞬間。
土居さんは、いきなり私の腕を掴んだ。
「うわっ!」
体制を崩してよろめいた私を、不器用に胸に引き寄せた。
そうして、力任せに私の後頭を掴むと、そのまま胸に圧し当てたのだ。
「ぶっ」
「だ、大丈夫だ!……これでいいのか?」
「…悪くは…ないです」
「ん。…大丈夫だ、もう大丈夫だから…」
自分の台詞に照れながら、彼は無造作にワタシの髪をワシワシと撫でてくれた。
お蔭でセットはひどく乱れてしまったが…
その不器用さが却って心地良い、だなんて、1年前の自分なら絶対に思わないことを考えた。
互いに『好き』の気持ちなんか無いはずなのに、彼の腕の中はことのほか暖かくって_____
「う、うぇっ…ふ、わあああっ」
不覚にも私は、その胸にしっかり縋って、昼休憩中泣いてしまった。
(ったく、素直じゃねえの…)
呟いたヒナに
トサカの片鱗が見えた。
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