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「あっ…」
私は彼の耳に口を当て、すうっと大きく息を吸い込んだ。
「…ったりまえだぁぁぁ~~~っっ」
彼のよく使う、『バッカヤロー!』よりも数段大きな声が、緑地帯に吸い込まれていく。
……。
「だからね?女ってのはさぁ、“シチュエーション”というのが大事なんですよ」
「えっと何?シチュー?」
さっきの大声の衝撃から、鼓膜が回復していないらしい。
しきりに右耳を触りながら、彼は聞き返した。
「違います。
相手に、『キャー、この人ス・テ・キ。チューされたいわ』
などと思わせるような雰囲気に、自分からもってかなきゃダメってことなんです」
「なんだそれは」
「はあ……(ったく)、
あのですね。
要は、良いとこ見せろってこと。
綺麗な景色を見せて、ロマンチックな言葉をかけるとか、豪華ディナーにさそうとか。
『ああこの人、私の事を大事にしてくれそう』と思わせる事です」
「面倒臭……」
「黙らっしゃい!
だから失敗したんでしょうが」
「ぐっ…そ、そうか。
しかし…どうやってその、相手のオッケーサインを見分けるんだ?」
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