lesson3 キスのタイミング

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彼が黙って聞くタイプだもんだから、私はつい調子に乗って、本当に久しぶりに笑い上戸になって、一人で(はしゃ)いでいたのだ。 そうして店を出る頃には… 「うっく…ひっく…」 「お前、感情の変化激しすぎだろ」 「う、うるさいっ…っ…いいの!」 (そう)の後の(うつ)状態。すっかり泣き上戸に変貌を遂げていた。 夜の繁華街を抜けた私達は、酔い醒ましに湾岸沿いの小路を歩いていた。 ったく、なんでそうなるんだ… ブツブツ文句を言いながらも、歩調をゆっくり合わせて車道側を歩く土井(かれ)。 彼はここ1ヶ月の間に、本当に成長したのだ。 そのお陰もあってか、少し気分が落ち着いてきた私は、ふと思いつき、話始めした。 なんのことはない、他愛ない昔話を。 「土居さん、あのね…私の元カレは、凄く話上手な人で… 営業課のトップセールスだったんです…」 「…なんだよ急に。 なあ、本当、大丈夫か?お前」 こくん。 首だけで返事をする。 「…彼は課の皆に慕われる人気者。 そんな彼が自分のフォローについてくれると聞いた時は、そりゃあ嬉しかった」 フラりとバランスを崩した私を、彼は慌てて支え、近くの縁石に座らせた。 「_____あの日。 私は初めて自分で仕事を取ってくる事が出来て…」 夢見心地に、対岸の光を見遣る。 「そうしたら彼、一緒になって凄く喜んでくれて。 『お祝いだから』って、ゴハン奢ってくれたんです」  隣で聞いている土居さんは、いつしか腕組みをして黙り込んでいる。  「あれは、そう。赤と黒の外壁の洒落たフレンチの小さなお店。 男の人と二人っきりシャンパンで乾杯したのも初めてだった。 面白い話も沢山してくれて…」
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