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彼が黙って聞くタイプだもんだから、私はつい調子に乗って、本当に久しぶりに笑い上戸になって、一人で喋いでいたのだ。
そうして店を出る頃には…
「うっく…ひっく…」
「お前、感情の変化激しすぎだろ」
「う、うるさいっ…っ…いいの!」
譟の後の鬱状態。すっかり泣き上戸に変貌を遂げていた。
夜の繁華街を抜けた私達は、酔い醒ましに湾岸沿いの小路を歩いていた。
ったく、なんでそうなるんだ…
ブツブツ文句を言いながらも、歩調をゆっくり合わせて車道側を歩く土井。
彼はここ1ヶ月の間に、本当に成長したのだ。
そのお陰もあってか、少し気分が落ち着いてきた私は、ふと思いつき、話始めした。
なんのことはない、他愛ない昔話を。
「土居さん、あのね…私の元カレは、凄く話上手な人で…
営業課のトップセールスだったんです…」
「…なんだよ急に。
なあ、本当、大丈夫か?お前」
こくん。
首だけで返事をする。
「…彼は課の皆に慕われる人気者。
そんな彼が自分のフォローについてくれると聞いた時は、そりゃあ嬉しかった」
フラりとバランスを崩した私を、彼は慌てて支え、近くの縁石に座らせた。
「_____あの日。
私は初めて自分で仕事を取ってくる事が出来て…」
夢見心地に、対岸の光を見遣る。
「そうしたら彼、一緒になって凄く喜んでくれて。
『お祝いだから』って、ゴハン奢ってくれたんです」
隣で聞いている土居さんは、いつしか腕組みをして黙り込んでいる。
「あれは、そう。赤と黒の外壁の洒落たフレンチの小さなお店。
男の人と二人っきりシャンパンで乾杯したのも初めてだった。
面白い話も沢山してくれて…」
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